キリリク

□ジーン
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「こ、こら!!!待てぇ!!!あっちだ!!追いかけろ!!!!」

もちろん男は仲間を呼びつけ、オレ達を追いかけて来る。

「こっちだ!!!」

オレはあかねの手を掴んで、勢いよく飲み屋街を通り抜ける。酔っ払ったオッサンと肩がぶつかり、怒鳴る声が後ろから聞こえても振り返る事なく、ひたすら逃げた。

「あと少しだけ頑張れ!」

「は、はい」

本当は息を荒らしながら一生懸命走るあかねを抱えて逃げようかとも考えたけど、ここはあえて目立たないように、走る事を選んだ。

「あそこを右に曲がるぞ!!!」

繋いだ手を引っ張り、細い路地に入る。
この辺りを調査した限りじゃ、確かここを曲がると大きな繁華街に繋がっていた。

「よし、人混みに紛れるぞ!!!」

予定通りの人混みに飛び込んだ。
人の流れに合わせるように、二人並んで歩いているとあかねから口を開いた。

「あ、あの、有難うございました」

「こんな時間に何やってんだよっ」

睨むようにあかねを見ると、申し訳なさそうな顔をする。

「友達が外で待っているって言われて」

「友達?」

「同じ部屋に住んでる子なんですけど、その子が外で待っているって言ってたみたいなんで」

「……。」

要するに、オレが外に出たのを利用した誰かが居るって事か……。
寮ん中だからといって安心出来ねぇな。

あかねを襲ったヤツらを考えると相手は1人じゃねぇ。
ったく。おやじのヤツ、こんな大きな依頼なら最初から言えよ。

おそらく誰かに騙されて、ここまでオレを探しに来たと思って間違いはなさそうだった。

「……あの……。」

「どうした?」

「手は繋いだままの方が良いんです?」

「はぐれちゃマズイだろ」

繋いだ手を離そうとしたあかねの手を握り返した。

「で、でも、アタシ、貴方が誰なのか知らないですから、このまま一緒にいるのもおかしいんじゃないかとおも……。」

「……やべぇ、見付かる!!!」

「あ、あの」

「いいからこっちだっ!!!」

遠くに、さっき見た黒ずくめの男達が視界に入り、話を遮ってビルとビルの隙間に入った。

「きゃっ!!!」

「いいから我慢してくれ」

「……。」

緊張が走る中、あかねを黙らせてその隙間から男達が慌てながら過ぎ去るのを睨み見る。


"1.2.3……三人組か"



追手の男達がすげぇ血相で過ぎ去り、気配が遠のくのを息を呑んで待っていた。
その瞬間、鼻をくすぐる、甘く香る髪の毛の匂いで、オレはあかねを抱きしめているような格好になっている事に気付いた。


「「……。」」




今思えば、この時から全てが始まっていたのかもしれない。




抱きしめていた腕を離せないまま、どれだけ時間が過ぎたんだろう。
オレは、ここで最大の過ちを犯してしまう。


「……ねえ」

「あ、わりぃ」

あかねの声で、抱きしめ続けていた腕を緩めた。

「どうして乱馬がここにいるの?」

「えっ?や、やっべぇ……。」

オレはこの時、初めて雨が降っている事を知った。










アタシの家は凄く厳しい。言葉を変えると過保護なんだと思う。
早くにお母さんを亡くした父は、アタシ達三姉妹を大切に育てくれた。
母替わりのような優しい長女に、しっかり者の次女、そして元気だけが取り柄の三女のアタシ。
お母さんがいない寂しさを、忘れさせてくれる位の愛情を家族から貰った。

でも、アタシは大学に進学すると同時に世間を知るため、家を出たいと思っていた。
勿論、猛反対した父に次女のなびきお姉ちゃんが一緒に説得してくれたのだ。



そして、それから3年が過ぎた。

女子寮で共同部屋じゃないと認めないと言って、勝手に部屋を契約して来た父に、それじゃ意味がないっ!って喧嘩になったけど、今となっては感謝している。
ここはご飯もあるし、友達も寮で出来たし、毎日が修学旅行みたいで楽しい。

この間、同じ部屋に住んでいた先輩が卒業と同時に引越し、いざ部屋に一人になるとこんなに寂しくて怖いんだと身にしみた。
隣に誰も居ない寂しさを一番感じたのは寝静まる頃だった。
寝言でも、いびきでも、聞こえてくれば人が襖の向こうにいる安心感かある。
それが暫く無くて、誰か来ないかなと思っていた矢先だった。



「早乙女乱馬……男の子みたいな名前ね」



初めて管理さんから名前を聞いた時の感想だった。
でも、本人を見た時に可愛くて名前とのギャップに笑ってしまった。
目はクリッとして、鼻筋もすうっとしていて、女のアタシが可愛いと思えるぐらいの女性だった。
ただ、スカートも履かないし、いつも長い髪の赤毛を一つにまとめるぐらいでお洒落らしい事には興味がないらしい。
態度もだけど凄く男っぽい。
名前から想像した、男っぽさも持っている魅力的であり、何かの秘密を抱えていそうな女性だった。

おっちょこちょいで不器用なアタシの失敗をフォローしてくれる事も多い。
こないだも壊れたネックレスを1時間もかけて直していたのに、後ろから覗き込んだ乱馬がアタシから奪って5分程度で簡単に直した。

『こんなの簡単だろ?』

『そんな事ないわよっ』 

『それぐらいだったらいつでも直してやるよ』

そう言って頭をポンっと撫でられ、女の子にドキッとしけど、その時にアタシは乱馬に違和感があったのも確かだった。



だから、抱きしめられていた見ず知らずの男性が、乱馬に変わったのは驚くより、納得という気持が強かった。

助けてくれる理由と、ずっとあった違和感が頭で一つの線に繋がり、驚きより勝ったのだ。

「ねえ、乱馬なんでしょ?」

「………。」

「さっきの男の人は乱馬なんでしょ?」

「………そうだ」

「そうなんだ」

「お、驚かねぇのか?」

戸惑いながら、アタシから離れていこうとする乱馬の腕を何故か掴んだ。

「驚いたわよ。でもお陰て助かったわ。有難う」

「あ、あぁ」

それが、アタシと乱馬の出会いだった。
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