☆長編
□KEEP 4
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「は〜や〜くっ!!起きなさい!!乱馬!!」
「だぁっ!!わかってるってっ」
「一体何時だと思ってるの?」
あかねは布団に包まったオレの身体を揺さぶりながら耳元で声を張り、呼び覚ます。
「起きるからっ!!」
「じゃあ起き上がりなさいよ!!」
「へぇい」
「ホント、なかなか起きてくれないんだからっ!!下で待ってるわよ」
渋々、身体を起して目を擦りながら欠伸をするオレを呆れた顔してため息混じりに呟いて部屋を出ていった。
「………。」
本当は少し前から目が覚めていた。
「さてと、降りっか」
布団を跳ね除けて、手に届く範囲にあった
タンクトップを掴んで腕を通す。
「乱馬ぁ!!!早くっ!!」
「へいへい」
部屋の外から聞こえる大きな声に、そんなにデカイ声を出さねぇでも聞こえらぁ……と小さく呟いて部屋を後にした。
「やっと来たのと思ったら不機嫌そうな顔ね……。」
階段下で待っていたあかねは、早速オレに嫌味を吐いて溜息をつく。
「おめぇの起こし方が悪ぃから、目覚めがスッキリしねぇんだよ」
「なんですって?毎日起こしてあげたのに!!」
「別に頼んでねぇし」
少しムッとしたあかねを煽るような目つきで舌を出した。
あれから、オレとあかねは何も無かったと思うぐらい、いつも通りに戻っていた。
「だったら、毎日決められた時間に起きなさいよ!」
「それだけ疲れてんだよっ」
「疲れてる?起きる気がないだけでしょ?」
「なんとでも言え」
世話焼きのあかねは、オレが前の日にどんだけ文句言っても時間通りに起きて来ないと、公言通り必ず起こしに部屋へ来るようになった。
それが嬉しくて、目が覚めてるのに寝たフリをしたまま、あかねが部屋に来るのを待つようになっちまった。
それを誤魔化す態度と言葉にあかねは、すぐつっかかってくる。
「おっ?朝からイチャイチャ見せ付けてくれるね。お二人さん」
「「ち、違いますっ!!!」」
通りすがりのトレーナーに茶化されて、反抗したら、あかねも合わせたかのように声を荒あげた。
「おやおや、言い訳も同時かい?」
「「………。」」
「あかねちゃん、そろそろ乱馬を借りるよ」
「そんなんじゃ……。」
「早く来いよ、乱馬」
ニヤニヤしたままのトレーナーはそれ以上何も言わず、先にジムへ向かった。
「もう、乱馬のバカ!!ヘンな誤解されたじゃないのっ!!」
前に比べてあかねの態度が変わった。
何て言えばいいかわかんねぇんだけど、前より文句は増えたし、遠慮がねぇ。しかも必ずオレの側にいっから、些細な事でも口うるさい。
「なんだよ?ヘンな誤解って」
「別に!!ほら、みんな待ってるわよ。早く行きなさいよ」
「そーですか」
「あっ、今日の夜は打ち合わせよっ!!忘れないで」
「わかってら」
オレからすりゃ、頑張り過ぎだろ、と思うぐらいに以前より仕事も熱心にこなす。
「後からドリンクとタオル持っていくわ」
とりあえず、何もかもが前より一生懸命だ。
そして、オレの中でも少し変わってきた事がある。
「ああ、頼むぜ」
「それと、今日も頑張ってね」
「……。」
身体を鍛えるのは、オレにとって当たり前の事で呼吸と同じだ。この仕事も選んだんじゃねえ。必然だった。
今まで、"頑張れ"と言われても"闘う"事が人生の一部だったオレの心には、たいして響かなかった。
でも、あかねが言う"頑張って"は、たった一言なのにヤル気が出というか、何かをやんなきゃなんねぇ気持ちになっちまうんだよな……。
「あったりめーだ!!見とけよっ」
今日もあかねの一言で躍起になったなんざ言わねぇけど、増えたプログラム内容を気持ち良くこなしていった。
「だぁっっ!!!!あっちぃ」
今日は梅雨前の暑さと、厳しいプログラムメニューで鞭打った身体に一先ずシャワーで汗を流して、タオルで頭を拭きながらあかねのいる事務室に入った。
「お疲れ様、乱馬。打ち合わせここでいいかしら?」
「だったら飯でも食いながらやるか?」
「ん〜。ちょっと早いから先にこっちを片付けましょ」
難しい顔して書類とにらめっこし続けるあかねの隣の椅子に座った。
「なんだよ。あかねが決めてくれたらいいぜ。オレが打ち合わせ嫌いなの知ってるだろ?」
「わかってる。でも乱馬の意見も知りたいわ」
「来月のイベントか?」
「そうなの。締切りが週明けだから今日までには仕上げたいのよ」
はいっと手渡された書類に軽く目を通して見ると、書類とは言えねぇほど空白まみれだった。
「おい、殆ど決まってねぇの?」
「あ、うん。実は……。全く頭に浮かばなくって」
「今日中にって、これじゃムリだろ。打ち合わせより以前の問題だぜ。第一、オレの出番じゃねぇぞ」
「わかってるわよ。だから頼んでるんじゃないの」
あかねがオレに頼みごとをするのも、こういった書類に手詰まりなのも珍しい。
「はぁ?頼まれた覚えはねぇよ!!」
「ちょ、ちょっとぐらい、いいじゃない!!」
「……ったく。仕方ねぇな。その変わり貸し一つだからな。きっちり払って貰うぜ」
それでもオレは、あかねを困らせたくて意地悪く注文をつけてやった。
「何よそれ!!」
「じゃあ手伝わねぇ」
「わ、わかったわよ」
渋々オレの要求を飲み、唇をきゅっと尖らせたあかねを頬杖をついて満足げに見た。
「何よ」
「べっつにぃ」
「は、始めるわよ」
ぷいっと顔を背けて、持っていたペンでぺしっと叩かれ、そっから暫くはあかねの話に耳を傾けた。