☆長編

□KEEP 4
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「い、痛いからっ!!!!ちょっとっ!!!離してよ!!!!」

あかねに抵抗されるも、それを無視して手首を掴んだまま、誰もいねぇ医務室のドアを開けて中に押し込んだ。

「もう!!!何するのっ?」

お互い睨んだまま、視線を逸らさない。
あかねは文句一つ言って、隙あらば逃げようとしてるんだろう。
でもな、言いてぇ事なんざ山ほどあるんだよ!こっちはっ!!!!


「仕事もせず片付けなんぞしやがって!!!!」

「片付けだって立派な仕事でしょ?」

「オレの管理より片付けが優先なのかよ?お前はオレの付き人だろうが!!!」

「そ、そうよ……。」

あれからオレ達はまともに口を聞いてねぇ。だからわかってんだ。オレを避けてるってことぐれぇな。

「それも良牙とイチャイチャ。オレへの当てつけか?」

それがわかっていても、オレと良牙への態度が違うのにイラついていた。
それでも我慢してたってぇのに、あんな所を見ちまうとあかねを連れ出さずにはいられなかった。

「覗きなんてサイテーねっ」

「覗かれてマズイ事でもしてたのか?」

「そんなわけないでしょっ!!」

「どうだか」 
 
「なんて思ってるか知らないけど、思い込みも勘弁して欲しいわ」

「思い込みだぁ?」

「そうよっ!!」

これ以上、怒らせたくねぇのに浮かぶ言葉を吐く度にあかねの顔が曇っていく。

「良牙と抱き合ってたクセに?」

「なっ!!!!」

「良牙の事が……好きなんだろ?」

なんとも言えねぇ空気になる。
こんな時に話す事じゃねぇよ。それもわかってる。

聞きたくねぇけど、知りてぇ。

相反する思いに情けねぇ程、ずっと振り回されてたんだ。

あかねの気持ちが知りてぇ……てな。

「………。」

「どうなんだよ。あかね」

「ち、違うわよ」

「嘘つけっ!!」

「ホントよっ!!!!」




オレは睨んでる眼の奥を覗き込んだ。




「じゃあ、誰が好き……なんだ」




あかねは目を見開き、顔を逸らした。

「ア、アンタには、関係ないでしょ」

「関係ねぇ事はねぇだろ!!」

「ら、乱馬が知ってどうするのよ?!仕事には関係ないわ」

「か、関係あるだろ。恋愛は禁止だって前にも言ってるだろーが!!オレは認めねぇからな。ぜってぇに!!」

「勝手だわ!!アタシには誰とも恋愛するなって言いたいワケ?」

「だったら誰としてぇんだよ?」

「……誰ともしたくないわよ!!恋愛なんてっ!!」 

「したくねぇって何でだよ!!」

「もーっ!!!!!!なに?知らないわよっ!!!!」

「うわっ」

あかねはオレを大きく突き飛ばして、医務室から出ていこうとした。

「お、おい!待てよっ!!話しは終わってねぇぞ!!!!!!!!」

オレを無視してドアノブを握りって出て行く寸前、振り向き際に大きく息をすった。

「オレは誰とも認めねぇからな!!!」

「…乱馬のバカっっ!!!!!!!!」

それだけ言い残した後、扉を思いっきり閉める音が部屋中に響き渡った。

「………くっそ」

立場を利用してでも相手を振り向かせてぇなんて、かっこ悪ぃ生き方はしねぇタイプ人間だと思っていたのに。


「あかねの……バカヤロウ」


なんで、あかねの事をこんなに好きになっちまったんだろう。




あかねのいない、一人っきりの医務室の椅子に座って、暫く天井を見上げる。

あかねと出会う前の自分が、今のオレを見てなんて言うだろう。

情けねぇヤツだと笑うだろうか?
面倒くせぇと顔をしかめるだろうか?


ズルいヤツだと言うのは間違いないな。きっと。











乱馬のバカっ!!!!
なによ!"誰とも認めねぇ!"とか、"何でしねぇんだ?"とか、意味わかんない!!!!


"じゃあ、誰が好きなんだよ"


アンタよ。なんて言えるわけがないじゃない。

「もーーっ!!!!知らないんだから!!!!」

拳を握って声を押し殺して小さく叫んだ。

「天道さ〜ん。電話よ」

「あっ……はーい。今行きます」

遠くから呼ばれ、落ち込んだ気分を払拭するように大きな声で返事をした。
駆け足で事務室に入り、受話器に手を置いて深呼吸をし、電話に出る。

「ハイ、お待たせ致しました。天道です」

『お疲れ様、天道くん。頑張ってるようだね』

「課長……。お疲れ様です」

『早速だがこないだの件、決まったよ。早ければ来月だそうだ』

「………そうですか」

『あぁ、企画部のチーフとして戻ってくれ。期待してるよ』

「では、ここの仕事は……。」

『代わりは今検討中だ』

「……わかりました。失礼します」

受話器を耳から離して、そっと元に戻した。







オレは日が暮れるまで、医務室のベッドに横たわっていた。
どこも悪くはねぇし、痛くもねぇ。
頭がボーっとしていたのは確かだった。

重い気持ちで、渋々事務所に戻った頃には既に殆どのスタッフは帰宅していた。
勿論、あかねも帰宅していた。




寝て起きりゃ大抵の事は忘れるオレでも、今日の朝も気分は沈んでいた。
ここの所、ずっとそうだ。普段は疲れ切って起きるのも一苦労なのに、時計を見ると朝の7時前だった。


もう一眠りしようとしてもなかなか寝付けれず、だらりと起き上がって一階の事務所に降りた。

「おはよう、乱馬」

「あかね?なんで??」

まだ居るはずねぇあかねが目の前に立っている。
夢かと思って目を擦ってみても、あかねはオレに微笑んでいた。

「ちゃんとしなきゃって思って……。」

「そ、そっか」

「うん」

久しぶりに見たあかねの笑顔。
昨日のケンカも嘘みてぇで、今朝まで落ち込んでた気分が簡単に吹っ飛んだ。

あかねとこうして話せるんだったら、何でもいい。


「今日は早いんだな」

「これからは早く来て、乱馬のサポートをちゃんとするから。朝も毎日起こしてあげるし夜も最後まで待っておくから」

お、おおおおお起こしてくれる?
って言うことは、どどどういう意味だよっ!!
いや待てって、そりゃ早いだろ?!

「ま、毎日ってそれは……まぁ、でもいいけどよ」

「毎日?」

「いや、なんでもねぇ」

「今までごめんなさい。これからは、乱馬が言うように仕事を真剣に打ち込むわ!恋愛どころじゃないわよね」

誰かとあかねが恋仲になるぐらいなら、オレを好きじゃなくても側にいて欲しい。
今はそれだけで十分だ………。


「ったく、このタオル洗っとけ」

オレはあかねの顔を目掛けて首から垂らしていたタオルを投げつけた。
そのタオルが狙い通りにあかねの頭にフワッと落ちる。

「もう!相変わらず人使いが荒いんだから!!」

「うっせー」


側に居るだけでいい。


心からそう思った。
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