☆長編

□KEEP 4
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映り変わる景色には、幾つもの光で暗い町並みを灯す。それを帰りのバスのシートに身体を埋めて暫く眺めると、自分の顔がガラス越しに映っていた。
醜い顔の自分から目を逸らすように真っ暗な夜空に視線を移した。



今夜は月が雲に隠れている。








何も考えたくないのに乱馬と右京の顔が交互に浮かんじゃう。


どうせなら付き合っていてくれていた方が気が楽だった。
乱馬が追いかけてこなければ、こんなに悩まなかった。

『何で逃げんだよっ!!!!!!!!!!』

あんなに声を荒げる乱馬、初めて見た。

「………。」

これ以上辛い思いをしたくないんだもん。逃げたっていいじゃない。

どうしてわかってくれないの?アタシの気持ち。

どれたけアタシが悩んでるか知らないくせに……。

思い出したくない……。

乱馬も右京も………あのキスも。





どんな事があっても必ず日は登る、なんてよく言ったものだ。

昨日の出来事が頭から離れないまま、今日が始まった。

アタシも乱馬も目を合わせる事はない。
最小限の話しにも互いに返事だけ。
更に、殆どの時間を事務処理に費やし、出来る限り顔を合わさないようにした。

得意のディスクワークを一心不乱にこなす。
そして前よりも早く帰宅し、たまに寄っていた右京のお店にも行かなくなった。

そんなギクシャクした日が幾日か過ぎていく。


それでいい。


結局、それがアタシの出した答えだ。






流石に昼過ぎにはディスクワークが無い時だってある。
そういう時は事務所の片付けをすると決めている。
だから今日は、あまり使われない倉庫代わりの薄暗い部屋に昼過ぎから篭って片付けていた。

山積みになったダンボールを一つ一つ開けて、何年も使っていない様な物をゴミ袋に入れる。
少しずつでも綺麗になっていくのは気持ちがいいし、夢中になれた。

「もうっ!!何時から掃除してないのよっ」

一人で文句を言いながらも黙々と続ける。

時間も忘れて、幾つか目のダンボールを引っ張りだすと、かなりの埃で何度もむせ返った。

「ゴッホ!!!!」

「窓を開けないとダメですよ。あかねさん」

「良牙くん……。」

良牙くんはアタシの前を失礼、と言いながら横切り、締め切ったままの窓ガラスを勢いよく開けると、誇りにまみれた部屋に新しい空気が風と共に舞い込み、少し汗ばんでいた身体に心地よく吹きつけた。

「さっきから覗いていたんですけど、凄く夢中になっていたみたいだったんで声を掛けるか悩んだんですが、あかねさんが埃まみれだったんで、つい……。」

「いえ、ありがとう。窓を開ける事なんて忘れていたわ」

「こんなに埃が舞い上がってるのにですか?」

「うん……。」

アタシ達は顔を見合わせて同時にぷぷっと笑い出した。

「そんなに夢中にならなくてもいいのにね。アタシ」

「何事にも一生懸命になるって事はいい事です」

「そう?」

「勿論。ついでに僕もつきあいますよ。丁度、手開きなんで」

「じゃあ、お願いしていい?」


良牙くんとは告白されたあの日以来、あまりその話をしていない。良牙くんからもあの時の話しに触れることはないし、普段通りに接してくれていた。

二人で始めた掃除は、トントンと片付いていく。

「良牙くん、それ取って貰っていい?」

「あかねさん、ここにそれを置きませんか?」

部屋に入った時に感じた、狭く、立ち寄り難い雰囲気だったのに、窓からの光を遮っていたモノも無くなり、かなり広くて日当たりもいいんだとわかった。

「倉庫にしておくのは勿体無いわよね。この部屋」

「ここですよね。僕が居た時には既に倉庫でしたから、こんなに言い部屋だなんて知りませんでした」

「良牙くん、ここに住んだら?なんちゃって」

「いい提案ですね」

「もうっ。ホントに思ってる?でも、手伝ってくれてありがとう。」

「いえ、僕も久しぶりにあかねさんの笑顔が見れて良かった」

言われてみれば、久しぶりに笑ったかもしれない。

「………乱馬と何かあったんですね」

「それは……。」

「何があったかは聞きません」

「良牙くん……。」

「それでも僕はあかねさんを好きですから。それだけは忘れないで下さい」


「あかねさんが笑顔なら、今はそれだけでいいですから」 

良牙くんの大きな掌がぽんっと頭を撫でてくれる。

良牙くんの気持ちには答えられられないって言わなきゃいけないのに……アタシはその温もりを少しだけ感じていたかった。


疲れた心に染みていく……。



ズルイのはアタシだ。



逃げてばかり。



なのに良牙くんの気持ちを知っていて甘えてるなんて………最低だ。
ちゃんと見ていてくれている良牙くんにはハッキリと断らなきゃダメ。


誰かと何かを比べるなんてワケじゃない。
でも、このままだと自分を嫌いになりそう。

そう思い直したアタシはゆっくりと口を開いた。

「………良牙くん。あの、アタシね、やっぱり……。」

「だから、いいんです。好きでいさせて下さい」

そう言うと良牙くんは、一瞬アタシの頭を抱き寄せ、すぐに離れた。

「りょ、良牙くん」

突然過ぎて動けずいると良牙くんは、にこっと笑った。






「こんな誰もこねぇ部屋で何やってんだ?」

「覗きなんて趣味が悪いな。乱馬」

「ら、乱馬……いつから……。」

「おめぇはオレの付き人だろうがっ!!!!どうして良牙とここに居るんだよっ!!!!」

アタシ達を睨んだ乱馬が、アタシの肩を掴んで、部屋から連れ出そうとした。

「か、勘違いしないでよね!!良牙くんは手伝ってくれただけよっ!!!!」

それを拒否するように身体に力を入れたアタシに加勢した良牙くんが声を荒げだす。

「止めろ!あかねさんが痛がってるだろうがっ!!!!」

「うるせぇんだよっ!!!!良牙には関係ねぇ」

「あかねさんから手を離せ。乱馬」

良牙くんは乱馬を離そうとアタシの手を掴もうとした。

「触んなっ!!!!」

「……乱馬」

その余りにも凄い剣幕に空気が静まり返り、良牙くんも身動きが止まった。

「いいから来い」

そして、乱馬は良牙くんを部屋に置いてアタシを外へと連れ出した。
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