☆長編

□KEEP 4
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「話し?いいぜ」

「う、うん」

これからうちが何を言うか検討がつかないんやろう。
らんちゃんの無邪気な顔を見ると初めの言葉が浮んでけぇへん。

「最近、どない?」

「最近?変わらねぇぞ。こないだみんなでメシに行ったぐらいじゃねぇか?それが話なのか?」

「……最近、変わった事とかない?」

「んん?変わった事……。」

らんちゃんは首を捻って宙を睨んだ。

「そう、変わった事や。例えば、らんちゃんの気持ち……やろか」

「オレの気持ち?」

流石のらんちゃんも、少し険しい顔つきになる。

「せや。気になる人がおる……とか?」

「な、な、な、な???」

こっちが恥ずかしくなるぐらいに動揺するらんちゃんに詰め寄った。

「らんちゃん、好きな娘おるやろ。それってあかねちゃんか?」

「なぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!あ、あ、ああんなかわいくもねぇし素直じゃねぇ女だぞっ!!す、好き?!?大体、アイツはただの付き人でぃ!!!!!!!!!!」

こんなに取り乱すらんちゃん、初めてや。
それが、やっぱりめっちゃ辛い。
明らかにあかねちゃんが好きなんやって言ってるようなモンやないの。

でも、うちだって諦められへんからここに来たんや………。

「………じゃあ、らんちゃんは好きな娘おらんのやな?」

「………そ、それは……。」

ハッキリとしないらんちゃんを封じるように、うちは切り出し迫った。

「うち、らんちゃんの事が好きやねん」

「え?うっちゃん?」

目をパチパチさせて驚いたらんちゃんは迫るうちに、くるっと背を向けた。

「ら、らんちゃん?」

「いや、わりぃ。オレ……。」

「そのままでもええから聞いて欲しいんや」

「……。」

何も言わへんらんちゃんに、強引に話始めた。

「高校生の時らんちゃんフラれて、他の男とも付き合った。けどやっぱりなんか違うねん……。それが今回の再会でわかったんや。うち、ただの幼馴染みやなく、やっぱりらんちゃんの彼女になりたいんや」

「………オレは」

「ダメやろか?だって好きな娘おらへんのんやろ?うちの事嫌いか?」

「……高校生ん時も今でも、うっちゃんの事を大切に思ってるぜ。でも、それは……。」

「それ以上は言わんといてっ!!!」

それ以上聞きたくなくて、うちはらんちゃんの背中に抱きついた。

「うっ、うっちゃん?」

「お願いや………らんちゃん。うちと付き合って欲しいんや」

うちの声が、静かで何もない事務所に響いた後、一瞬沈黙になる。

そして、うちらしかいないはずなのに、ガタっと物音がした。


「あ、あかねちゃん。何でや?」

呆然と立ち尽くすあかねちゃんが、うちらを見ていた。

「ご、ごめんなさい。忘れ物しちゃって」

「あ、あかね……。」

「邪魔したわね」

作り笑いをしながら、机の手帳を手に取って逃げるように事務所を出こうとしたあかねちゃんの腕を、らんちゃんがうちから離れ、すかさず掴んだ。

「待てよ!!!!」

「……アタシには関係ないわ」

「ち、違うんだ!!!!」

「知らないわよっ!!!いいから、離してよっ!!!!」

腕を振り払うあかねちゃんを離させへんらんちゃんは声を荒げた。

「待ちぃや、あかねちゃん」

「うっちゃん?」



「ごめんな、あかねちゃん。ホンマはうちとらんちゃんは付き合っとらん。でもな、らんちゃんの事を好きなのは変わらへん。せやから、その気持ちをらんちゃんに伝えたんや」

うちはらんちゃんの事を真剣に想っとる。
ずっと、ずっと、見続けとるんはうちや。
あかねちゃんの知らん、らんちゃんをうちは知っとんや。

うちの方が、あかねちゃんよりらんちゃんの事、想っとる。

せやから、あかねちゃんの目を見てハッキリと宣戦布告をした。
でもあかねちゃんは目線を逸らして、らんちゃんを押しのけ、何も言わず事務所から出ていった。

「ま、待てよ」

「行かんでっ!!!!らんちゃん」


それでもうちは、追いかけようとしたらんちゃんに抱きついた。

「………離してくれ」

抱きついたうちから離れようと、らんちゃんはもがいた。それでも、うちは離さんかった。

「嫌やっ!さっきあかねちゃんの事、好きやない言うてたやんかっ!!!!」

「……だよ」

「なんやて?」

「あかねはオレの付き人だ」

「……。」

「居なくなると、困るんだよっ!!!!」

「………らん、ちゃん」



その言葉が……すべてやんか……。


ズルいわ………らんちゃん……。



「わりぃうっちゃん」

そう言うとうちの腕を振り払ろうて、らんちゃんはあかねちゃんを追いかけた。


うちはその場にへたり込み、その後を追う事は出来ひんかった。









「待てよっ!!!おいっあかねっ!!!」

先に出て行ったあかねの姿が見えて、名前を呼んだのに振り返るどころか、止まる事もしないあかねを追いかけた。

「待てって言ってるだろ!!!」

あかねを捕まえられる距離まで近付き、腕を伸ばして強く肩を掴んだ。

「ちょっと!やめてよ!」

「話を聞けってっ!!!!」

腕を振り回してオレから逃げようとするあかねの身体を両手で掴んで、ビルの壁に押しあてた。

「きゃっ!」 

「だからっ………あ、あかね……。」

塞ぎ込むように顔を隠そうとしていたあかねの頬には涙が流れていた。

「な、泣くなって!!!!」

「泣いてなんか泣いわよっ!!!目にゴミが入っただけよ!!!!」

「………ばかっ!!!ウソつけっ!!!!」

「ホントよっ!!!大体、何で追いかけて来るのよ!!!」

「あ、あかねが逃げたからだろ?」

「あの場に居たらアンタ達の邪魔になるでしょ?」

「邪魔ってなんだよ?」

「だから、右京が仲良くしてたでしょ?」

「それが違うって言ってるだろ?仲良くって、右京は幼馴染みなだけだろ?」

「………。」

「おめぇが何で怒ってるのかわかんねぇけど、誤解だけはすんな」

「誤解なんてしてないっ!!!!」

「じゃあ、何で怒ってんだ?」

「別に怒ってなんかないわ」

「じゃあ、何で泣いたんだ?」

「泣いてなんか……ないわ」

「じゃあ、何でそんな悲しい顔をするんだよ」

掴んでいる手に、思わず力が入る。
オレを睨み付けていたあかねの目が宙を泳ぎだし、唇を噛み締めた。

"あかねのその目は誰に向けられてんだ?"

それが知りてぇのに、オレから離れようとばかりするあかね。


「別に誤解してるわけじゃないわ。実際に右京はアンタの事、好きじゃない」

そうかもしれねぇ。
でも、オレだって……。


「オレの気持ちも知らねぇくせに」

「え?」

「なんで逃げるんだよっ!!!!!!!!!!」

オレは更に顔を寄せると、あかねはびくんと身体を強張らせ、止まっていたはずの涙がまた溢れ出した。

「……。」

「……悪りぃ」

固まったままのあかねから腕を離して、オレは背を向けた。

「言い過ぎたな」

それだけ言って、オレはあかねを置いて歩き出した。
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