☆長編

□KEEP 2
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━━強化合宿の内容━━


先程渡されたばかりの書類の冒頭を読み流して、日時と行き先のみ確認した。

一週間かぁ。

「おはようございます!あかねさん!」

「おはよう。良牙くん」

「あかねさんも一緒ですよね、その合宿」

「多分」

「いつも猫の手も借りたいぐらい忙しいから、助かります」

「そうなの?」

「ええ、洗濯や片付け、スコアの管理など諸々です」

「そうなんだ」

てっきり、する事なんて何もなさそうだし、行かなくてもいんじゃないかなって思ってたのに。

「さて、今日も頑張るぜ。俺の事も見て下さい。あかねさん」

「えっ、あっ、うん」

良牙くんはニコッと笑い、八重歯をキラリと光らせながら走っていった。

「えっと、見て下さいって、何をだろ?」


「何やってんだ?行くぞ」

良牙くんの言葉に首を傾げてると、歩きながら、頭をぽんっと叩いてアタシを追い抜い抜いて振り返った。

「ら、乱馬…。」

「ったく、朝からぼーっとしてねぇで、働けっ!今日から練習メニュー変わんだろ?何からだ」

「あっ、えっと…。」

慌ててカバンから手帳を取り出して開いくと、挟んであった用紙を乱馬が素早く手に取って、内容を確認した。

「え〜と……はいはい、これだな。ほらよ、これぐらいわかっとけよ」

「ごめんなさい」

その用紙をアタシに返して、乱馬は良牙くんの後を追っていった。

「……。」

乱馬と食事に行ったのは、お休みの前の日だったのもあって、昨日は乱馬に会っていない。
正直に言うと話をしていないだけで、昨日の朝、隣で寝ていた。

人生初の、男の人の家に泊まって朝帰りってヤツ。

「……。」

お泊りしてしまったのに、いつもと変わらない態度を見るとやっぱり何もなかったのかもしれない。

そりゃそうよね、あくまでも付き人だし…。

人生初の朝帰りは、アタシだけ意識してるという苦笑いで呆気なく終わった。




そして、いつもと変わらない毎日が暫く続いて、予定されていた強化合宿の日がやって来た。
強化合宿先までは車で移動するために、事務所へ朝早くから出社して、色々と準備を慌ただしくしていた。

「おーい、あかねちゃーん。乱馬のヤツ起こして来てくれ。まだ上から降りてきてないんだわ」

「わかりました!」

出発間近と言うのに、まだ姿を表さない乱馬に痺れを切らしたトレーナーから頼まれ、アタシは乱馬の部屋へ行った。

「開けるわよ乱馬!早くしないと、みんな待って……。」

ドアを開けると、既に準備を終えてスエットを着た乱馬が、荷物を担いで窓の外を眺めてる何気ない姿に何故かドキッとしてしまう。

「……。」

「ああ、今いく」

「…は、早くしてよ」

ドキドキしているのを隠す為に、視線を逸らし、語尾を強めてせかしたアタシを、乱馬は近づいてマジマジと見つめた。

「な、な、何よっ?」

も、もしかしてバレた?

「…お前そんな格好じゃ寒いぞ」

「えっ?あっ、だ、大丈夫よ。いつものダウン持ってきてるし」

「バカか!あんな動きにくいもん着て仕事出来っか!ったく。ほらよ」

「わっ」

引き出しから素早くフリーズを取り出しアタシに投げた。

「とりあえず着とけ」

「うん」

「オレには小さいけど、あかねにはやっぱりデカイな…。ははっガキみぇ」

「やっぱりいいっ!」


優しい言葉に甘えてフリーズを着ると、その姿を馬鹿にされ、カチンときたアタシはフリーズを脱ごうとした。

「合宿先は寒みぃからだめだ」

「それでもやなの!」

「バカっ、だめだっていってるだろ!風邪でも引かれたら迷惑だ!」

アタシの中で、時間が止まった気がした。

「……そう。迷惑なんだ」

「な、な、なんだよっ!」

「わかりました。ちゃんと着ればいいんでしょ。アタシ先に行くから、早く来て下さいね」

「お、おい、あかね!」

言われた通りフリーズは着たまま、乱馬を無視して部屋を出てた。
そして、無言で移動車のワンボックスカーに乗り込み、良牙くんの隣りに座った。

何よっ!乱馬のバカっ!
迷惑だなんて言い方しなくてもいいじゃないのっ!

"子供みてぇ"

"迷惑だ"

か……。

きっと乱馬にとって、アタシはただの付き人としてしか見えてないんだろうな。

アタシ、乱馬の言葉に傷ついてる?


じゃあ、どう映っていて欲しいの?

特別な存在?

特別って?



あぁっっ!!!!もうよくわかんないしっ!!!!!

そうよ、こんな時は仕事に没頭よっ!

「あかねちゃん、乱馬は?」

「すぐに降りてきます」

アタシの返答と同時に乱馬には車に乗り込み、無言でアタシ達の後ろの座席にどんっと腰掛けた。

「すいません、お待たせしました。出発して下さい」

「了解」

予定より少し遅れ気味で、目的地に向かって発車した。




「おい乱馬よ、機嫌悪いな。何かあったのか?」

「…。」

後を向いて話しかけても返事をしない乱馬に、良牙くんが不思議そうに聞いてきた。

「あかねさん、なんかあったんですか?」

「別に何もないわよ!」

「そうですか?アイツも折角、右京と会えるのに」

「右京?…誰?」

「あぁ、うちの合宿で全ての食事を任せてるフードコーディネーターです」

「フードコーディネーター?」

「俺たちの栄養管理をしてる人です。乱馬の彼女でもあります。まぁウワサですけどね」

「……。」

彼女、やっぱりいたんだ。

「あかねさん?」

「な、なんでもないわ。そう、乱馬って彼女いたんだ」

「少し前、雑誌にスクープされてたの知りません?」

そういえばここに来る前、乱馬をネットで調べてた時に見たような……。

「それに社長が怒って、あかねさんを付き人として呼んだんですよ」

「……。」

「監視役として」



アタシって乱馬の恋を邪魔する為に呼ばれたの?
頭が真っ白になる……。

こんな事って……。


「あ、あかねさん!あかねさん!」

遠くで良牙くんの声が聞こえた気がする。

「おい、あかね!あかね!」

……乱馬?

「あかねーーっ!!!」

そしてアタシは意識を失っていた。
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