深淵の間

□暗闇に光を
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暗い、くらい

闇の中に、堕ちていく。


生温かく、むしろ、居心地が

良い、とまでも、錯覚してしまいそうな

そんな暗闇。


このまま、もっと、もっと、

深く、ふかく

沈んで、しまいたい――






ばさばさんっ!!

「…俺を、無視するとは、いい度胸だな。」

頭に、重い衝撃を受け、まるで目を覚ましたような感覚でハッと意識を目の前に向ける。

…無表情で私を見下ろす、紅髪の男がいた。


「こ、紅炎、様。」

煌帝国第一皇子にして西征総督の大任を請け負っている男。

自分の周りを見れば、いくつも本が散らばっていた。どうやら、先ほどの衝撃の正体はこの本達らしい。
そこまで、考え、本の表紙にある題名をみて、目を見開く。


「ちょ、これ!三国期の歴史書じゃないですか?! ああ!これも刀国の冒険者の…

何するんですか!全部、貴重なものですよ!」

「今、何刻だと、思っている。」

「何刻、って蛇、の……」

刻、と応えかけたが、窓の外を見て言葉が途中で止まる。
夕日によって赤く染まりかけている。


赤く染まりかけている、空?

「…蛇の、何だって?」

「あー、えっと、」


顔が引きつっていくのが分かる。
蛇の刻は、所謂、昼時の時間を表す。
紅炎様の周りの空気が段々、不穏になっていく。



〜備考〜
蛇の刻とは、大体十二時くらいのこと。
モデルは十二支。

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