深淵の間

□タイトル未定
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「…は?」

たっぷりと一拍空けて出た言葉は何ともまぬけな言葉だったと、後々に思った。

今日行われる、甥っ子の成人の儀にオスカーはいつも以上に仕事に負われていた。

そんな時だった。

普段は、礼儀正しく従順なメイドが息をきらし、執務室に走りこんできたのは。


「…まさか、だな。」

「どどど、どしま、しょ!」

「まぁちょっと落ち着け」

「けれど…!?」

「通常通りの出迎えで頼む。執事長には任せると。後で私も行くとお伝えしろ。」


混乱しているメイドに指示を出す。

彼女は混乱をしている頭に自分の命令を入れたようで、最初走りこんだ来た時とは真逆にちゃんと頭を下げてから退出していった。


「ふぅ、」


オスカーは椅子に深くもたれ、案外冷静なもんだと思った。一応礼儀として招待状を送っていたが、本当に来るとは考えてさえいなかった。

走りこんで来た彼女はこの家に働いて何年も経っているはずなんだが、


「まさか、クルートが出席するとは…」


何か、起きそうな予感がするなぁ、とオスカーはそう言って、窓の外を見る。
空は果てない碧さを彩っていた。

思い浮かんできたのは、クルート家主催の当主任命のパーティ。
…まだ、15歳の身で公爵に次ぐ侯爵になったシアンの事だった。



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