深淵の間

□タイトル未定
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天気は快晴──気分は憂鬱。


シアンは馬車の中から流れていく新緑の森をぼんやりと、見ていた。


「はぁ…」


今日何度目か分からないため息。

頭の中には、屋敷に置いてきた小さな少年の姿が、浮かんでくる。

そもそも、今日は外出する予定はなく、屋敷にいるはずだった。


「何を、考えているのやら…」


―あのお方は。

自然と浮かんでくる厳格な雰囲気に身を包ました初老の男性。一度たりとも、その顔に笑顔をシアンはこれまでに見たことがなかった。


"シアン様"

"セイジ?どうした"

"それが、"

"はっきりと言え"

"……御隠居からお手紙が"



「はぁぁ」


もう一度、深く息をはく。


「『ベザリウス家の成人の儀に行け』…か」


この国には、パンドラという組織がある。
基本的な役割は、他国の警備的存在と変わりないが、それは表向きの理由であることをシアンは承知していた。
真の役割は、深淵(アヴィス)の監視。チェインと呼ばれる人外の支配、管理。

それらを統べるのが、四大公爵家。

その筆頭とも言えるベザリウス家の嫡男の成人の儀に呼ばれるのはとても名誉なことなのだが、

クルート家とベザリウス家の間柄は決して良いものではなかった。



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