本気で捏造する平助√花終幕

□第四話
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ーー三日後。

朝餉の後片付けが終わった後、通りがかった玄関の戸がからりと開いた。

「ーー失礼する。坂本くんはいるか」

「………はい?」

いきなり現れた背の高い男の人は、怪訝そうに眉根を寄せた。

「見ない顔だな…新人か?」

曖昧な返事に気を悪くしたのか、腕組みしながらわたしを一瞥して嫌味な溜め息を吐く。

「…成る程。お前が噂の……」

「う、噂っ?」

一体何が何やら。
狼狽えていると、階段を降りて来る足音が響いた。

「ーーおぉ!大久保さんっ!」

「……坂本くん、私の名をそんな大声で叫ばないでくれないか…。忍んで来た意味がなくなる」

やれやれと言った感じでゆるく首を振りながら、これまた盛大な溜め息を。
…………すっっっごく偉そうだ。

「………おいそこの小娘」

…『小娘』。
……って、わたし???

「何をぐずぐずしている。私は坂本くんに用事があるがお前にはない。邪魔だからさっさとそこを退けないか」

「……ど、」

どけ?
わたしが邪魔だから退けって言ったのこの人?

「…し、失礼しました…」

一歩下がって道を開けると、ふんと鼻を鳴らしながら玄関を上がり、少し垂れた目で見下ろしてきた。

何なのこの人……感じわるーい……。

「おい小娘!そうやってあからさまに表情を変えてると頭が悪いのを露見することになるぞ。そこの坂本龍馬の妻になる女ならば、顔色ひとつ変えず胸の内も見せるな。良妻は無駄口も叩かないものだ」

「……………へ?つ、ま…?」

「なっ……大久保さん、何を言うとるがじゃ!りりはそんなんじゃないがよ!」

……妻。
つまり、わたし。
この人に龍馬さんの奥さんだと思われてたの?

「……ん?何だ違うのか?噂に聞いた君の押し掛け女房かと」

「だっ、誰がそんな噂を……押し掛けなんてとんでもない、ワシが勝手に世話させてもろうちょる娘さんじゃき」

前にいた龍馬さんがあたふたと説明している。
ある程度の事情を知ると、今度はふうん、と好奇の目でわたしを見た。

「…ほう……見た事もない舶来品に身を包んだ迷子……か」

痛いほどに刺さる視線が居た堪れなくて、ふいと下を向く。

「大久保さん、あんまりりりをからかうんはやめて欲しいぜよ。怖がっとるが」

「……怖がっている?………ふむ…」

擁護の声を掛けた龍馬さんに向き直り、はてと首を傾げた大久保さんは、一瞬何かを思いついた様子だった。けれど、ふと頭を振って龍馬さんに促されながら寺田屋の奥へと入ってゆく。

ようやくその鋭い眼差しから解放され、ほっとしたわたしも、二人の背中を追いかける様にして炊事場へ急ぐ。お茶を用意しなくちゃ!
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