本気で捏造する平助√花終幕
□第四話
6ページ/13ページ
「ーーおぅりり!」
寺田屋に着く手前、用事で外から帰ってきた龍馬さんと以蔵に出くわした。
「わっ…、あ、龍馬さんと以蔵も、おかえりなさい!」
一瞬驚いた声を上げてしまった。
だって、たった今平助くんと別れたばかりで…。
ふと後ろを見たけど、彼の姿はもうなかった。
内心ホッとして胸をなで下ろすと、龍馬さんがわたしの両手を取りぐっと距離を縮める。
「今帰ったがか」
「えっ…あのっ、」
「りり!土産を買うてきたぞ!」
「……龍馬、時と場所を弁えろ。先ずは宿に向かうぞ」
以蔵に促され、寺田屋に向かって歩き出した。
「……ったく、往来の場でいちゃつくのも大概にしろっ!目障りな上に目立つんだ」
もっと自覚を持て、と龍馬さんを睨みつける以蔵。
…だけど、わたしの隣を歩く当人はちっとも怯まない様子で。
「まぁまぁ許しとおせ。偶然にも今一番会いたかった女子に会えたんじゃ、周りなんか見えんがよ!」
「阿呆か!お前が自重しなければりりにも迷惑がかかるんだ!……さぁ、着いたぞ、早く入れっ」
辿り着いた寺田屋の玄関を開け、せかせかと中に入った。
最後に入った以蔵が戸を閉めると、先程の剣幕を抑え込むようにはぁ、と長くため息を吐いていた。
「……もし万が一俺たちと一緒にいるところを新撰組になど見られたりしたら…一番困るのはりりなんだ。だから龍馬、絶対に見られるなよ」
「……あぁ。おまんに気を遣わせてすまんかったの、以蔵」
龍馬さんが謝罪すると、黙ったまま頷いて玄関を上がって行ってしまう。一瞬見えたその横顔は、少し照れ臭そうで。
…優しいんだな、以蔵は。
何より、わたしの事を特に気にかけてくれていた。
「……りりにもすまんかったの、ついつい嬉しゅうて。なんも考えんと、いい歳した男がはしゃいでしもうた。許しとおせ」
「いえっ、そんなっ…!……あ、そうだ龍馬さん、わたしもお土産買ってきたんですよ」
眉尻を下げた龍馬さんに饅頭の袋を見せる。
「おお、饅頭か!ちょうど良い頃合いじゃし、皆で茶をいただくとしようかの」
「はいっ」
玄関を上がり、早速お茶を淹れてこようとお勝手に足をを向けた途端、左手を掴まれた。
「……えっ…?」
「…りり。少し、時間をくれんか」
龍馬さんには珍しく、控えめな声音だった。
首を傾げていると、何やら懐から取り出した。
「さっき言ってた土産じゃ。受け取ってくれ」
「…あ……ありがとうございます」
受け取り、包み紙をそっと開ける。
……簪だ。艶のある漆黒に散りばめられた金箔がきれい。
「すごくきれい……良いんですか?」
「勿論じゃ。…あぁ、近い内に髪結いに連れていかんとな!おんしの髪によぅ似合うと思うての」
不意に髪を撫でられ、どきりと体が硬直した。
顔も熱い。
「……ありがとうございます」
小さくお礼を言い直すと、いつものように「にしし」という人懐こい笑顔で返された。