短編

□人はだ恋し秋の夜長
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人はだ恋しの夜長


青峰君とお付き合いを初めて1ヶ月が経とうとしている。
同じクラスで毎日会って、毎日話して、毎日メールして、毎日電話する。
それが1ヶ月。
好きって気持ちが膨らんで、付き合う前より好きの意味は深くなる。
ずっと一緒に居たい。
離れてしまう寂しさがつらい。
夜は特に。
メールをしていても声が聞きたくて、会いたくて、触れたくなる。
今日も青峰君と電話。
部活のこととか、他愛もない会話の中で突然私の中で何かが音を立てて切れた。

「あ、青峰君」

『なんだ?』

「さびしい、会いたい」

欲が漏れた。

『は?そりゃ俺も会いたいけどよ……』

電話越しで彼の困った声が聞こえる。
それもそのはず。
時刻は23時。
そりゃ、困るよね。
最悪だ、あたし、最悪の彼女だ。

「……だよね、ごめん」

自分の馬鹿さ加減に涙が出てきた。

『名前、泣いてんのか?』

「なんでもない、っ……大丈夫」

『おい待て大丈夫じゃねえだろ。お前ん家行くから玄関で待ってろ』

「え?」

ツーッ、ツーッ
電話が切れた。
私は携帯を短パンのポケットに入れて、家を出た。
玄関先にちょこんと座って青峰君を待つ。
ドキドキが止まらない。
なんだろう、この感じ。
うれしくて、心がきゅんとするこの感じ。
携帯をぼんやりと眺める。
待ち受け画面には愛しい彼との写真が映っていた。

「名前!お前!家の中居ろって!!」

電話から15分後、息を切らして青峰君が走って来た。

「あお、みねくん……!」

たまらずぎゅっと抱きしめる。
安心してまた涙が出る。

「な、なんで泣いてんだよ!!」

「来てくれたことがっ、うれしくて……!」

「……あー、当たり前だろ」

そう言って照れくさそうに言って頭を撫でてくれた。

「ふふっ。青峰君、大好き」

嬉しくて今度は笑みがこぼれる。

「それはこっちの台詞だっつーの」

そしてしばらく抱き合って、キスをした。
私が半そで短パンの薄着でいたものだから、風邪引くから早く家に入れって言った。
でも、私がまだ嫌なんてわがまま言うから、青峰君は着ていたジャケットを私に着せた。
大きなジャケット。
青峰君の臭いがする。
そのあと少し話して、ばいばいって借りたジャケットを脱ごうとすると

「脱がなくていい」

「え?」

「また明日も、来るから、その……」

青峰君は言葉を詰まらせた。

「わかった。また明日返すね!」

「ああ。じゃ、おやすみ」

「おやすみ!」

私はぶかぶかのジャケットを着たまま家に入る。
また明日、愛しい彼に会えることを楽しみに。



2012/09/18


(また明日。が、嬉しくて)



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