何処からか来た夢

□母なる星の下、貴方に誓う
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デストロンとの長い長い戦争が終わり両者無事に和解。何人かの愛郷心を持つ戦士は、セイバートロン星を復旧しに行くと帰っていった。
残った戦士達は休息と、地球に愛着のある者たちだろう。私はどちらかというと前者だ。地球も大好きだが、やはり故郷のセイバートロン星が一番だ。
だからこそ私はある悩み事を抱えていた。地球にするか故郷にするか……真剣に頭を捻らせている後ろでコンボイ司令官達が、またバスケットボールという遊びをやっている。やっぱり平和なんだなと染々。

「ハハハ、私のドライブを止められるかな?」
「スパイク!司令官がドライブって言った!」
「ちゃんと覚えたんだ、やったねバンブル!」
「スパイクー!このゲームで司令官を止められたら、俺とドライブしよう!」
「どっちのドライブ?わかったよ。頑張れハウンドー!」

スパイクの声援に背中からでも張り切るハウンドが安易に思い浮かぶ。ハウンドは地球に訪れた初期から、ここを気に入っていたようだから当然残った。勿論それだけじゃないのも判ってるけども。スパイクがどっちのドライブと取るのか楽しみだ。
閑話休題、ここだと周りが騒がしくてなかなか集中できない。いい天気なんだがな、私は適当に基地内をウロウロすることした。




陽気な外とは違って基地内はひんやりと寒い。カツンカツンと響く自分の足音が、いかにここが静かかを物語る。

「オォイ、何勝手にチャンネル変えてんだ。今いいところなのに!」
「うるせェ!いつもいつも台ロマで占領しやがって。たまには違うの見せろってんだぃ!」

んー、前言撤回。
さて、台ロマ組対他チャンネル組の戦闘を背景に、またぼそぼそと頭を働かせようか。
まあ悩みというのは私の愛しいプロールのことなんだ。ちょっと彼にとあるサプライズを仕掛けようと思ってね、プロールはセイバートロン星に行っちゃってるから、迎えに行くか帰りを待つか…。

「いつまでウジウジしてんだ。ここは思い切っていっちまいなよ」

いやでもそりゃウジウジもするだろう。私だってこれをするにはまだ少し早いかなぁとも思ってるし……というか、誰?

「でもね、ホイスト。また司令官の許可がおりない気がするんだ」
「何言ってんだ。それはデストロンがいたからさ。あいつらはもういない、合併したじゃないか。だから大丈夫だって」
「うぅん…でもねぇ…」

少し前にある部屋から聞こえる声は間違いなくホイストとグラップル。会話の内容からしてグラップルがまた新たな発明を産み出したのだろう。
ホイストが背中を推すもなかなか踏み切らない。私も和解した今、大丈夫だと思うんだがなぁ。

「やぁ、ホイスト、グラップル」
「あっ…こんにちは、副官」
「どうも。もしかして聞いてました?」
「ああ。すまないね」
「いえいえ、大丈夫です」
「なぁ、グラップル。私も今なら大丈夫だと思うんだがね」
「うぅ…そうですかね」
「そうとも。まずは相談からでいいじゃないか。そう引っ込み思案になるなよ、君の腕は素晴らしいんだから」
「…そう、ですよね」

グラップルは少しばかり表情を柔らかくすると、ありがとうございますと会釈をする。ホイストからも続けて会釈され、なんとなく照れ臭い。
彼がどんな発明をお披露目するか、とても楽しみだ。きっとセイバートロン星の復旧に役立つだろう。

「ああ、そうだ副官。頼まれていた物が完成しましたよ」
「おお、ありがとう」

グラップルから手渡された小さな箱を大事に扱う。確認として中を見てみれば、うん上出来だ。
私の無茶なお願いを聞いてくれた二人に、頭を下げて深く礼をする。二人はこそばゆいといった表情で謙遜する。本当に助かったと、もう一度お礼を言ってから、部屋を後にした。

それから考えてみたけれど、やっぱりプロールの帰りを待つことにした。やっぱりなんだかんだで私も地球が好きなようだ。




約一ヶ月後、戦士達は交代でセイバートロン星に派遣されるが、その交代でプロールは地球に戻ってきた。おかえりと軽く挨拶とキスを交わして、暗くなってしまったが散歩しないかと提案する。いいよと可愛い笑顔で承知してくれた。勢いでもう一回、キスを。

「お疲れ様。向こうはどんな感じだい?」
「順調だよ。エネルギーもグラップルのお陰で有り余ってるぐらい。デストロンとも仲良くやってるよ」
「ハハハ、そうか。今まで闘ってきたのが可笑しいぐらいだな」
「全く」

グラップルの発明はやっぱり素晴らしいものだった。
なんてことはない他愛ない会話をしながら基地から離れた所に進む。今日は空気が清んでいていつもより星が綺麗に見えた。赤いのも青いのも白いのも…全部が全部鮮明で、本当に今までこんな綺麗な星空を見たかなってくらい。
私は手を上げて、一際大きく輝く星を指差す。

「プロール。あそこにセイバートロン星があるの見えるかい?」
「うん、見えるよ」

そんなに距離はないはずなのに、それでも地球からだと小さく見えてしまう。こうしてみるとなんだか儚くて、恋しくなる。
この瞬間も、みんなはあそこで頑張っている。けど私は今だけ我が儘になるよ。今はプロールと二人っきりで星を眺めていたい、したいこともあるしね。
少し話していい?と、プロールが頷くのを見て口を開いた。

「私は、自分が作られたばかりの頃は、とにかく強くなって誰かの役にたつことが夢だった」
「うん」

何千万年も昔を懐かしむ。あの時はまだまだ平和で、私もまだまだ精神的に幼かったな。

「それがデストロンとの戦争が始まったとき、彼らに勝つことが夢になった。戦争は続き地球に来て、そこで私は君に好意を抱くようになり、いつしか君と結ばれることが夢になった」
「うん…」

相槌を打つプロールの顔が少し赤くなる。そう、私は戦争と愛情を繋いで強くなり、そして大人になった。まだまだ未熟なところはあるけど、夢を叶えるときがきた。

「…今ここで、母なる星の下。プロールを愛したこの地球で誓う」
「…?」
「私はいかなるときでも君を愛し、そして幸せにすることを誓う」
「!…マイスター…!」
「プロール。私と結婚しよう」

面を食らうプロールの前に小さな箱を差し出す。パカッと蓋を上に開ければ、中にはグラップルとホイストに作ってもらった特製のシルバーリング。
プロールが震える声で「これって…」と息を呑む。

「結婚指輪だよ。ハハ、地球の慣習に浸かりすぎたかな。プロール、私のプロポーズを受け入れてくれるなら、左手の薬指にこれを嵌めてくれ」

嫌なら…言い終わる前にプロールは指輪を私の言った位置に嵌めた。その指を空に翳して眺め、にこっと照れ笑う。
青い空の下でもプロールの顔が真っ赤なのが判った。

「…私も、セイバートロン星の下、マイスターを愛し、幸せを築き合うことを誓う」
「プロール…」
「マイスター…誓いの、キスして…」

星を映すプロールの眼を見つめ、その唇に誓いのキスを落とす。愛を確かめ合うようなそんなキス、腰を寄せ深いものに変えていく。

観客のいない静かな結婚式を、一つの流れ星だけが祝福を落とした。










あとがき
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