何処からか来た夢

□欲気に駈られて
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二兎を追うものは一兎をも得ず。そういうことわざが存在するが、この男サウンドウェーブはそれさえも覆し、欲しい物はなんでも手に入れる主義だった。
そう、今がまさにそれ――。




簡素な部屋の中、二体のロボットが天井から繋がれた鎖に両手を戒められている。どこか虚ろとした様で床を見つめるのはサンダークラッカー、不機嫌な表情で虚空を睨むのはブロードキャストだった。
二体は約二時間前、サウンドウェーブに捕まり部屋に押し込まれ、こうして放置されていた。捕まる理由が解らない二人はただただサウンドウェーブの帰りを待つしかない。早く帰ってこいよ面汚し!ブロードキャストはギリリと奥歯を噛んだ。
それからまた数十分たち、金属の扉がシュンと開かれ、お待ちかねのサウンドウェーブが現れた。ハッと二人は視線をそこに移す。
サウンドウェーブは二体に歩みより、目の高さを合わせるようにしゃがんだ。彼が口を開くよりも先にブロードキャストが噛みつく。

「いきなり拉致って拘束ってどういうこと?!しかもおれっちだけならまだしも味方まで!」
「そうだぜサウンドウェーブ…俺、手前に何かしたか…?」

獣のように唸るブロードキャストと弱々しく首を傾げるサンダークラッカー。二人の問いを無視して、サウンドウェーブは「率直に聞く」と口を開いた。

「オ前逹ハ、俺ガ好キダロウ」
「「……えっ…」」

唐突な問いに二人して言葉を失う。明らかに動揺しているのが見えた。
確かに、今まで誰にも話したことはなかったが二人は密かにサウンドウェーブに想いを寄せていた。男同士だからと敵同士という理由で、その想いを無理矢理捩じ伏せていたのに、どういうわけかその張本人が事実を知っていた。恐らくブレインスキャンだと、少したってから勘づいたが。
沈黙という名の図星。サウンドウェーブはもう一度聞くと、身を乗り出した。二人の表情が曇る。

「俺ガ、好キダロウ」
「…っば、馬鹿馬鹿しい!何でおれっちが敵であるお宅を、サウンドシステムの面汚しを好きになんなきゃいけないのさ!」

照れ隠しともいえる誤魔化しをブロードキャストは必死の険相で叫ぶ。だがそれに反してサンダークラッカーは唾を飲むと、俺は…と言葉を繋いだ。

「…お、俺は、確かに、手前のこと…好き、だぜ…」
「なっ…!?」
「ホォ」

意外にも素直な告白にサウンドウェーブは感嘆の声を漏らす。一方のブロードキャストは、何で言えるのさと口をパクパクさせるだけだった。
目を伏せて唇を震わすサンダークラッカーの顎をサウンドウェーブは持ち上げ、此方を見ろと優しく問い掛けた。潤んだ瞳がバイザーを控えめに、それでいて熱く見つめる。
シュンとマスクオフされた次の瞬間。サンダークラッカーの唇は奪われた。

「なっ!?」
「んっ!?…ん…んは、ぁ…サウ、んっ…」

目の前でディープキスを交わされ、ブロードキャストのスパークがチクリと痛む。空いた隙間から両者の舌が絡まるのが見え、猶も長く続くキスについに目を伏せた。正直、見たくない。
それでも残酷に現実を伝えるリップオンが忌々しくて。サンダークラッカーの悩ましい吐息に激しい嫉妬心が沸く。
ちゅっ…と唇が離され、サンダークラッカーは名残惜しそうにサウンドウェーブの口を目で追う。一方相手のほうは何事もなかったかのように立ち上がるとブロードキャストのほうに足を進めた。
目を合わせようとしないブロードキャストの顔を鷲掴み、強引に上を向かせる。マスクの下の顔はしゅっとしていて思わずドキッと鼓動が跳ねた。

「お前は」
「お、おれっちは、別に…」
「素直に答えればキスよりもっと良いことをしてやろう」
「なっ…」

その言葉に、期待の色を隠せない。さっきの濃厚なキスよりももっと良いことをしてもらえるなんて…浅ましい欲望が自分を醜く追いやる。
いやでも。ここで理性がストップをかける。おれっちとコイツは敵同士…本当は好きになってはいけない、好きになるはずのない相手だ。一瞬の欲望に駆られて過ちを犯してはいけない。
ギリッと奥歯を強く噛む。それを否定と読んだサウンドウェーブは、そうかと一言呟いてブロードキャストの顔を離した。暗く歪むブロードキャストの顔を一瞥して、サウンドウェーブはサンダークラッカーと呼び掛ける。

「鎖を外してやろう」
「!ほんとか、」
「外したら自分で後ろをほぐせ」
「えっ…?」

接続行為をするための準備、分かりやすく言ってしまえば自慰を強要される。さすがにそれは恥ずかしいだろとサンダークラッカーは狼狽えるが、俺が欲しくないのかというサウンドウェーブの誘惑に愚かにも頷いてしまう。
いい子だと頬を一撫でし、鎖を外す。その手で触れてほしいのに。小さな望みも口に出せるわけもなく、サンダークラッカーは自分の後ろのハッチを開いた。

「…んっ…ふ…」

恐る恐る指を一本挿入して浅いところを掻き回す。まさか誰かの目の前で自慰をするなんて思ってもみなかった。それが好意をよせているサウンドウェーブならず、敵であるブロードキャストもいるとは。破廉恥な行為に背徳感がゾクゾクと興奮を逆撫でる。

「あっ……はぁ…ぁ…」

だんだんと淫らな音が響き始め指も数と速さを増していく。受容器から垂れた液が床に触れ、前ハッチがだいぶ苦しくなってきたとき、サンダークラッカーは弱々しく口を開いた。
挿入れて、と。

「はぁ…サウンド、ウェーブ……っあぁぁあん!」
「よほど興奮したようだな。中が焼けるように熱い」
「あ、ぁ…だって、サウンドウェーブの、はぅ…挿入れて、もらえると思ったら、ひゃあっ…!」
「厭らしいな、サンダークラッカー」
「うぅ…ごめん…んっ…」

またも交わされる深いキス。加え今度は接続行為まで晒され、ブロードキャストの心はチクチクと痛みを増し、目頭が熱くなるのを感じた。
揺さぶられ甘い声を放つサンダークラッカーは醜く厭らしく見え、かつてない嫌悪と吐き気が心に渦巻く。
素直に気持ちを言ってしまえば楽になれるが、それは味方を…自分を裏切るのと引き換えの賭けだ。どうしても自分とサイバトロンの信念は曲げられない。
だけど、

「はぁぁん、はっ、あ、あん、さう、ど、うぇぶ、あん、あぁっ!」

現実は酷く自分の精神を破砕し

「フッ…可愛いな…」

堕落へと誘う。
喉の奥まで出掛けた言葉をすんでで止める。渇いた息しか吐き出せなかった口は、何かを求めるようにパクパクと拙く動いて。
いっそ理性が吹っ飛んでしまえばいいのに。そうすればもうどうでもよくなる、きっと。

「ブロードキャスト」

名前を呼ばれ、体が強張る。そのエフェクトの利いた低い声はブレインサーキットからスパークまでを擽り、自身の本性を暴いてゆく。それを隠すかのようにブロードキャストは肩を震わせ、唇を結んだ。
低く透き通る声は続く。

「これが最後の問いだ。お前は俺が好きか」
「……おれっち、は…」

唇は五文字の言葉を記した。







忙しなく動く口からは涎が滴り、顎を艶やかに汚す。サンダークラッカーとブロードキャストはただひたすらに、目の前に出された愛しい男のコネクターを貪りしゃぶる。

「はふ、はむ、んっ、はぁ、ちゅる、さうんど、うぇーぶ、んん」
「ちゅ、ちゅぱ、はむ、ん、ん、すき、らぃすき、ふぁ」
「ああ。愛してる、サンダークラッカー、ブロードキャスト…」

醜い愛情に取り込まれた二人の顔は妖しく、それでいてどこか麗らかに微笑みを溢した。
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