何処からか来た夢

□PLCB
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「ん、ああ起きた起きた。初めまして。俺らは、まぁデストロン軍の一味だ。一味なんだが、デストロンという名は肩書きというか…そんなことはどうでもいいか。まずは貴方を拉致った理由から説明したほうがいいのかな?簡潔にいうと貴方には実験台になってもらう。俺らは人間共の医学や薬に興味があってな。その薬をトランスフォーマーに接種させたらどうなるかなって。なに、こんなの誰だっていいのさ。たまたま貴方が近くを通りかかっただけで、まぁ運が悪かったってことだ。安心しな、暴力を振るうつもりはない。…大人しくしてればな。さて前置きもこんなもんで、そろそろ始めるか」

よく訳が分からないままよく知ってる連中にそう捲し立てられた。頭がズキズキと痛む。そう言えば確か散歩していたら、いきなり後頭部を殴られたんだっけなぁ…破損がないか後でラチェット君にチェックしてもらわないと。
霞む意識を強制的に覚醒させ、どういうことかと身を乗り出すが、四肢をぎっちりと拘束されているため、良くて頭しか動かせない。見える限りでは敵は二人。仄暗い無機質な部屋の中央の寝台にワシは寝かされていた。

「まずは、これ…」
「よせ…止めろ!」
「老いぼれは黙ってな」
「大丈夫だって。人間の薬だ。例え効いたとしても些細な効果だろう」

宥めるように、それでいて狂気に満ちた声音でそう語りかけられる。老いぼれなら、失敗してもいいというのか。やはりデストロンは下劣な奴らだ。
唯一内部が剥き出しの首の部分に針を射され注射される。大したことはないがそれでもやはり感じる痛みに顔を顰める。
ふむ、と。デストロンの一人が今のは只の病原体だと様子を見ながら説明を施す。機械で謂えばウィルスといったところか。今のところ異常はない、風に思える。

「…反応なしか?」
「オイ。発熱、目眩、吐き気はないか。また他の症状は?」
「いンや。なにも」
「本当に、何もないな?胸焼けや息苦しさも?」
「…そんな念を押さんでも、なぁーんにもないさ」
「そうか…」

少し残念そうに手に持っているカルテをトントンと叩き、次ともう一人の一味に促す。立て続けに接種して大丈夫なのかと、針が深く刺さるほど比例して不安になる。
それから三回ぐらいか薬やら細菌(さすがにこれは不味いだろ…)やらを接種されたが、これといった反応変化はなし。まあこんなもんかと一味の二人は納得していたが、それでもワシは不安で仕方ない。今は何も起きなくても後から効いてきたりして…その時はその時か。
次が最後だなという声が聞こえ、ワシはホッと肩の力を抜いた。やっとこさ解放される…といいのだがな。所詮こいつらもデストロンだ。また利用価値がないかなんて監禁とか、最悪スクラップにするかもしれない。それだけはごめんだ。

「良かったな老いぼれ。これで最後だ」
「力を抜け」
「…ッ……」

チュウ…と針が沈んでいく。チラリとしか見えなかったが…薬の色がピンクじゃなかったか?エネルゴンによく似た色だったが…まあなんにせよ、人間の薬は我々トランスフォーマーに影響は無いと解ったわけだし。今さら気にすることはないだろう。
注射器が抜かれ、一味の一人が笑顔を歪ませながら薬についての説明をした。

「今のは媚薬だ」
「媚薬…?」
「そう。性欲を催す薬、又は惚れ薬といったところか」
「ぬ……」
「大丈夫か老いぼれ?何か変化は?セックスしたくなる〜とかムラムラする〜とか」
「馬鹿を抜かすな。そんなことあるわけ」
「本当か?体が熱くならないか?ムズムズするところはないか?」
「………」

このカルテを持った男は執拗に容態を聞いてくるな…そんなに聞かれると逆に効果がないほうがおかしく思えてくる。
まぁでも本当に何もないから、不審に思う必要など

(――えっ)

気のせいだと思いたい。だけどなんだか体が火照ってきたような気がする。あと、どことなくじっとしていられない。…気のせいさ。きっとただの思い込みだ。

「…っ……」
「ん?どうした老いぼれ」
「顔が少し赤くないか?」
「いや…気のせいじゃ…」
「本当か?なんなら体温を計ってみるか」
「いや、それは」
「そうだよそうだよ!計るだけ計ろうぜ!」

この無駄にテンションが高い青尻若造が。
脇腹に体温機へと繋がるコードを接続され体温を計る。ワシの位置からじゃ体温機のモニターは見えない。
暫くしてピーっと高い機械音が響きモニターの色が変わる。デストロンの二人は目を合わせてニヤッと笑った。

「老いぼれ…残念ながら体温が上がってますよー」
「なっ…なんじゃと…!?」
「最初に計ったときより約2℃程。これはもう間違いなく薬が効いてるな」
「そんな…そんな、まさか…」
「じゃあなに。老いぼれは今欲情してるってこと?」
「そうなるな」
「!」

嫌な汗が湧き出る。欲情?まさかワシが?冗談だろ。たかだか人間の薬でワシが欲情するなんて…。
ニタニタと笑みを溢しながら一味の一人が確かめるようにワシの横腹をツツと指でなぞり、擽ったさとむず痒さにに身を捻る。思わず吐息が漏れる。それをカルテの男は見逃さなかった。
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