ホワイトトパーズを君に

□ホワイトトパーズを君に
1ページ/5ページ









ニューヨーク・マンハッタンのアッパー・イーストサイド。


セント・ジュード学園の静かな廊下に教室から漏れた微かな水音が響く


忙しなく女の上擦った声が繰り返されるのを目の前にしている男は、表情の読み取れない
まるで今行われている行為自体に興味が無い様な顔をしていた


暫くして、女は悲鳴にも似た歓喜の声を上げた







女は床に散らばっていたコンスタンス・ビラード学園の制服を纏い、男の耳元で愛を囁くと
軽い足取りで教室を後にした


男はゆっくりと身なりを整え始めた


口からは無意識的に溜め息が零れ
視線は夕方の日に照らされた床に落ちていた





しばらく後に教室の入り口に足音が響いた


「また抱いたのか」


足音の主がそう言った

男の視線は床から教室の入り口へと移った



『お前には関係ないだろ…アイザック』


「いつもみたいにめんどくさいことになるぞ」


『…』


「さっさと着替えろナマエ。今夜はブレア主催のパーティーだ、サボるなんてことできないだろ」



ナマエと呼ばれた男は先程よりも少しだけスピードを上げて服を着はじめる



ナマエは大手宝石会社社長の息子である
一人っ子で両親は世界各国を飛び回っており、今ニューヨークの家に居るのは彼だけだ
クールな性格でルックスも財力も申し分ない
そんな彼に魅せられる女はたくさんいる

毎日女から迫られるナマエは無愛想な性格の割には一人一人にちゃんと断っていたのだが
断ることに疲れた彼は流れに身を任せ、女のやりたいことをやらせるようになった

元々恋愛には興味がなく、性欲にも無関心なナマエは特定の恋人をつくったことがない
それはこのアッパー・イーストサイドのセレブ達の中ではとても珍しい存在だった


アイザックの言う“いつもみたいにめんどくさいこと”とはナマエに付きまとう女たちの行動だ

ナマエが断らないのをいいことに
勝手に彼の恋人になっただの彼の初めての愛人になっただの言いふらし、人気者に関する目撃情報で成り立つ噂の的、正体不明の“ゴシップガール”なる人物のサイトで注目を浴びる
彼も恋人であるということを否定しないので周りはどんどんとエスカレートし、ナマエの意志の届かない所で浮気をしただの前の恋人とまだ別れてないだのと女の争いになる



そして最終的にお前が悪いとナマエが一方的に殴られたり罵声を浴びせられたりするのだ


そんな彼を何度も見てきた幼馴染のアイザックはいつもやりきれない気持ちでいた


ナマエは何もしていないのに最終的にはまるで彼が悪いように言われるのが
友人として許せない状況なのだ




『…行かなきゃ駄目か?』


「来い」


『…』



一人の愛する人ができれば女の悪循環を打破できるだろう。
そう考えるアイザックは彼にいい加減恋人をつくるように勧める



そのためアイザックとナマエは夜のパーティーによく現れる(もっとも、アイザックがナマエを強制的に連れてきているだけなのだが)



『…前にも言っただろ、俺は恋人なんていらない』


「お前が殴られてるのを見てるこっちの身にもなれ。だいたい、なんでお前はそこまで恋愛に無頓着なんだ」


『それは俺にもわからない』



着替えが終わったナマエはゆっくりとアイザックに近づく


二人は教室を後にし、華やかな夜の街へと歩き出した
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ