黄昏を射る。

□黄昏を射る。
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暫く動けなかった



嬉しいのかそうじゃないのかわからなくて

でも、自分の顔が赤くなっていることだけは確かだと思った


「名前」


何て答えたらいいか


「きょ、キョウ…その、ちょっと待って」


こんなに正面から告白されたことは初めてだ

「愛してる」

「っ…だから、聞いてるのはそこじゃない!
何で…俺のこと、好きだったなら自殺なんてしたんだ…!!」

背中にまわされた腕に力が入った

「愛してる。だから…お前を一瞬でも恨み、殺そうとした自分がどうしても、許せなかった。」

「だから…自殺、したのか」


責任を感じて
自ら死を選んだのか

「死ねなかったから、その思いも無駄だったがな」







「え?」


「何だ…名前気がついてなかったのか?」

俺、体温あるだろ?






そう言われてみれば確かにそうだ
それに、初めに会ったとき、キョウが成長していたことにも気が付いていたはずだ

いや、それよりも…

「何で…?俺は確かに、お前を…」

そうだ。あの時確かにキョウは死んでいた


「理由はわからない…が、どうやらペレジアの力のようだ」

伏せ目で答えるキョウにたくさんの疑問が浮かび上がってくる

「じゃあ、俺が使った薬は何だったんだ?」

「あぁ、サーリャのか。俺はあの人にここへ来るようにと手紙をもらったんだ」

「!?…じゃあ、サーリャは…」

「俺たちのことは全部知ってる。」

「でも、ムスタファーは知らないようだった…」

そう、彼は死に際に「何かしらの代償は要るかもしれないが、死者と話すことも可能だろう」と言った

彼はなぜ知らなかったのだろうか?

「それは…俺がこのことを話したのがサーリャだけだったからだ」


ペレジア兵に名前を殺す計画が知れ渡っていた中で、自分がそれを裏切った上に生きていると知られると今度こそ本当に殺されかねない

それでは名前に謝罪もできない

ペレジアの計画を盗み、助けることもできない

そんな中、ペレジアに微量ながらも不満を抱いていた女がいた



「…それが、サーリャだったって言うのか?」

「そうだ」

それから先日キョウのもとに届いた手紙を見せてもらった

それには

――  キョウへ

久しぶりね
名前があなたに会いたがっているわ
やはり、貴方のことは死んだと思っているみたい
適当な色水を名前に渡して、孤児院のあったところに行けと言ったから
貴方は先回りして名前が水を使うのを待ちなさい

そのあとは任せるわ

              サーリャ  ―――


そう書いてあった


「…本当に、全部知ってたんだな…」

「…名前」

「何だよ」

「…俺はペレジアに戻るつもりだ。もちろん、本気で奴らの支配下に入るつもりはない」

「…そうか、」

「何か分かり次第、連絡する」

「しばらく会えないだろうな」

“二度と”と言わないのは
そうなって欲しくないと願っているからだ

「あぁ、でもまたいつか会おう」


「…ああ」


「その時は返事、聞かせてくれよ?」


「あ?返事?」


「 愛してる 」


すれ違い際にそうささやいて、楽しそうに笑いながらキョウはどこかへ去って行った

名前はようやく意味がわかり、その背中に悪態を投げつけた






それから何となく日が沈むのをそこで見送った後に
名前は元来た道を引き返し始めた





数日経ち、名前がイーリス城に戻ると、スミアと結婚して幸せそうにしているクロムと
にやにやとこちらを見てくるサーリャ
そして、懐かしい仲間たちが出迎えてくれた

あの戦いが終わってから1年程たったその日


名前はイーリスに居た時の中でも一番の笑顔で出迎えに応えた





黄昏に染まった空を見上げた

名も知らぬ一番星が煌々と輝いている
その輝きに向かって

名前は帰還を知らせる矢を射た











黄昏を射る

(黄昏から夜へ変わるように)
(屑が星へ変わるように)
(お前に出会って俺は変わった)
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