黄昏を射る。

□黄昏を射る。
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馬車に揺られてたどり着いたフェリア城には
しんとした空気が漂い、皆の思いがどろりどろりとこぼれ落ちていた


「結局、何も取り返せなかった…」

「うっ…ひっく。お姉ちゃん…お姉ちゃん…」

「主君のために死ねず、おめおめと生き延びてしまったのですか、私は…」



そんな中

「これから、どうするつもりだい?」


「それを俺に訊くのか?」

「…だね。決めるのは――」


フェリアの二人の王は少し未来を見据えていた






「クロム、すまん。俺の策が及ばなかったせいだ…」

「俺も…処刑人は撃ち落としたが結局…」




「……お前たちのせいじゃない。ルフレ、名前…お前たちはよくやってくれた。」


クロムの表情は険しくなり
「俺はな……自分の無力さに腸が煮えくり返ってる…!!
くそっ!!
俺はどこまで無力なんだっ!!」

「クロム…!」

自分を責め始めた


「俺が……っ!力不足だから……っ!愚かだったから…っ!
何一つ変えられないどころか、
せ、世界で一番愛していた…
姉さんを……家族を失った!!」



声を押し殺して嘆くクロムを目の前に
ルフレと名前は顔を見合わせた
二人の思いはクロムと同じ
ルフレは軽く目で合図をし、名前は縦に顔を動かした


「……俺たちの手をとれ、クロム」

「…?」


「俺たちも自分の無力が許せない。…俺たちは未熟な何人前だ。」

「だから俺たちが、お前の半身になる。」

「お前が何度倒れても、俺たちが片手を引いて立ち上がらせる。」


「だからお前はもうひとつの手で、エメリナ様がつかめなかったものをしっかりと掴んでくれ。」



二人の瞳には微かに月光が煌めいていて


「エメリナ様と同じやり方じゃなくていい。
お前のやり方で、
すべての人に希望を見せてくれ。」

「それは…お前にしかできないことだ、クロム。」




「俺にそんな力が…資格が…あると思うのか?」


「足りない力なら、みんなが補ってくれる。
資格をためらうなら、ふさわしい自分にこれからなればいい。」


「少なくとも、ここにいる仲間はみんなお前を信じてる。」





三人が皆の方に視線をやると


「クロムのおにいちゃんは、ノノを助けてくれた。だから今度はノノが助けてあげる番なの」


ノノはいつも通りに笑っていて

「貴方は私を信じてくれた…だから私も信じるわ。でも…裏切ったら覚悟しといて。」

それはサーリャなりの絶対な信頼の表れで


「…信じていないなら、ここまで共には来ていない。」

ロンクーの意思表示はいつもよりも強く


「私も信じているとも。君との絆というものをね。」

ヴィオールもいつものように貴族的に発言し


「うん。だってクロムさんは…僕の憧れなんだから!」

リヒトも楽しそうに笑っていた




「………
ルフレ、名前、みんな…
俺は、姉さんの仇を討ちたい。
ギャンレルを倒し、イーリスの民たちを守りたい。

ついてきてくれるか?」


そう言ったクロムの顔には以前よりも増した凛々しさがある


「わたし、行くよ。泣いてるだけなんてもう嫌だから…!」

リズも兄と同じように
真剣な顔になる


「わたくしも。もう大切な人を失いたくありませんもの。」

いつもきりりとしたマリアベルも迫力が増して


「エメリナ様のため、それに、クロムのために…!!」
いつも笑顔なソールの顔もしっかりと引き締まり


「騎士として、この身は主君と共に!」

ソワレの男らしさにも磨きがかかっていて


「共に参ります。同じ心を持つものとして。」

リベラの瞳にも強い光が見え


「私も、お供します。いつまでもおそばで、あなたの盾になります。」

スミアはいつものおっちょこちょいな雰囲気が消え


「どこまでも…ついていくよ、うん。気づかれなくても…僕も…仲間だから。」
カラムの存在感はこの時は力強く存在し


「ったく、しょうがねぇな。いいぜ、俺様に任せとけって!!」

いつもクロムに張り合うヴェイクは心強い仲間で


「なんというか、熱いねぇ。金にはならねぇが、悪くねぇ。」

グレゴは年長者ならではの意見を出し


「私も戦うわ。信じさせてくれたあの人のために…」
人間嫌いのベルベットも協力を誓い


「若人の成長は早いものですね。エメリナ様。
謝罪はすべて見届けたあとに…
今は私も…
クロム様と共に参ります。」

フレデリクもエメリナに誓って、クロムについていくと決めた




「……
…ありがとう、みんな。」

クロムに久しぶりの暖かな笑顔が戻り


「俺は―――


―――戦う!!」


ついに彼も決断した


「いいだろう。もう頭を冷やせとは言わない。」

今まですべてを聞いていたフラヴィアが口を開いた


「我がフェリア国の軍も、あんたの激情ごと、ギャンレルにぶつけてやるよ!!」



「若いねぇ、お前さんたち。」


バジーリオも大口で笑い始めた


「まぁもっとも、俺も地が騒いでいくらか若返っちまったようだがな。」



「あ、あの、私も…私も一緒に行きます」



それまで黙ってバジーリオのそばにいたオリヴィエも続いて声をあげる

「エメリナ様には、優しくしてもらったことがありますから。」


「そう、なのか?」


「!!は、はい…ですから…恩返しをできるばって…私、踊るくらいしかできないですけど…
で、でも、あんまりじーっと見ないでくださいね
見られてると…うまく踊れないですから。」


「オリヴィエの踊りは天下一品だ。みんなやる気が出るぞ、特に野郎はな

戦いの指揮を執るのはお前さんだ。大いに使ってやってくれ。」


「俺が指揮を?」


バジーリオの案にクロムが疑問を抱く

俺ぁ今回の戦では、大暴れするって決めてんだよ。
俺たちフェリアはフラヴィアの指揮で、ペレジア軍と正面からぶつかる。

その間に、お前らの部隊がギャンレルを討て。

おいしいとこはお前らに譲ってやるさ。」


「しかし――」


「俺は、お前たち――
お前とルフレと名前を認めてる。
お前は人を引っ張る器がある。
ルフレは戦を勝ちに導く才がある。
名前は二人の指示を確実に実行する能力がある。

今はまだ未熟なところがあるが、これからお前たちは大きくなる。」



「バジーリオ…」


「まぁ、そういうことだ。思う存分やってみな。」



「――ああ。」




「おそらく、ペレジアの奴らはすでに動き出しているはずだ。こっちの気力が落ちている間にケリをつけたいだろうからな。」


「わかった。

ギャンレル……
今度こそ、決着をつける!!」


クロムの瞳にも皆と同じように光が射し込んでいた





君がいるから大丈夫

(君さえいれば)
(負ける気はしない)
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