黄昏を射る。

□黄昏を射る。
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「…遅かったな、名前」

やっとの思いでイーリス軍の列に追い付いた。
列と言ってもすでに城内に入っているのでバラバラだが。
入口に立っていたロンクーに話しかけられた。

「ちょっと考え事しててね…」

少々言い訳。

「悩み事か?」

「まぁ、…うん」

そう言えば、
城内に入ってからは皆自由行動なのに、何で彼は入口に居たのだろうか。

「ロンクーはこれから何の予定も無いのか?」

「…何故そう思う。」

「入口に立ってたから、何もすることないのかと…」

ちょっと失礼だったかな



「名前を待ってた。」

「え…何で?」

「姿が何時からか見えなくなっていたからな。もしかしたら倒れたのかもしれないと思って…とりあえず待っていた。」

倒れたと思ったなら引き返したりするのが普通な気がするけど…
俺なら大丈夫とか考えてたのだろうか?

まぁ、兎に角

「…ありがとう」

俺のこと、気にかけてくれて。


「ッ…じゃあ、俺は鍛練に行く。」


「そっか、頑張れ」

ロンクーとは反対方向に歩く。


「久しぶりに本でも読むか…」

目指すは自室。



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夕刻、

ノックが聞こえた。


「俺だ」

「…!!」


声だけで判る


ルフレだ。


彼と二人きりになるのは腕を切る直前、そして原因。
この傾いた日のおかげで薄暗い部屋に二人だけになるのは何とも心細いものだった。

だがしかし、追い返すのもやりきれない。


「…どうぞ」


ゆっくりとドアが開いた。


「すまない、狭い所だから椅子が1つしかない…ベッドに腰かけてもらってもいいか?」

「いや、此方こそ急に訪ねてしまって…」


沈黙


それを先に破ったのは彼の方だった。


「名前は…俺のことが嫌いか?」


「ッ!!」


「俺に会ったとたん走り去って行ってあの出来事だ。…予想はつく。」

「…ごめん…」


何とも幼稚な謝罪だろうか。
今の俺には到底彼の目を見て話すことなどできない。

「…名前、」

ルフレが近づいてくる。

ひっぱたくのだろうか
若しくは首でも絞めるのだろうか?
彼にとって俺の印象はかなり悪いだろうから。



顔に両手が添えられる

頭を軽く上げるとルフレの泣き出しそうな顔が目に映った。

そのまま手は降下して

ゆっくりと抱き締められた。


「…絶対に、忘れないから」

そう耳元で囁いて
彼はいつの間にか部屋から居なくなっていた。


鱗片

(彼と彼の忘れ物)
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