ワイングラスの夢

□ワイングラスの夢
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 特に連絡もせず、見慣れた屋敷を訪問する。

「サリュ、花穎」

「赤目さん…」

「刻弥でいいよ」

些か警戒心の足りない烏丸の現当主はそのまま流れに任せて俺を招きいれた。

それと相対するように彼の執事が厳しい視線をこちらに向ける。

相変わらず、自分の主人以外は敵といった様子だ。

「今日は友人を紹介しに来た。花穎と同じパブリックスクールの出身だ。」

「友人?赤目さんの?」

「何だ?俺に友達がいたらおかしいか?」

「そ、そういう意味じゃないですけど…」

「花穎様、お客様がいらっしゃったようです。」

呼び鈴の音に衣更月が素早く反応する。

少しして、漆黒の髪をした細身の男が親し気な笑顔を浮かべて花穎と赤目のもとにやってきた。

「こんにちは、初めまして花穎!赤目から君のことはよく聞いてるよ。」

「花穎、こちら立石初雪。フランスで最近はやりのデザインインテリア店オーナーだ。」

「はじめまして、立石さん。烏丸花穎です。」

「花穎、こいつゲイなんだぜ?」

「ふぇ!?」

「おい、赤目…いきなりその話をしたらびっくりするだろ?ごめんな花穎。」

「いえ…その…大丈夫です…」


突拍子もない話題に、衣更月までもが目を丸くする。


「確かにそうだけど、男だったら誰でもいいわけじゃないし…」

「それに、もう好きなやついるもんな、初雪!」

「赤目!」


初雪は顔を赤くして俺の口を塞ぎに掛かる。


「花穎、エドワード・グラームズって知ってるか?」

「エドワード・グラームズ…イギリスきっての名家…富豪…実業家…で、合ってるよね…?」

「そうそう、そのエドにこいつはお熱なんだよ。」


花穎は口をあんぐりと開いて停止する。
が、衣更月が一瞥するとすぐに冷静を装って座り直した。


「でも、エドには駒鳥がいるからね…ずっと片思いだよ。」

「でも、今日はちょっと似たやつに会えたろ?」


今度は赤目が衣更月を一瞥する。


「…エドワード・グラームズと衣更月が似てるの?」

「やってる仕事は随分違うが、見た目と性格がな。」

「へぇ…」


「きょ、今日は花穎をイギリスで開かれるパブリックスクールの同窓会に誘おうと思ってきたんだ。」

慌てて初雪が話題を変える。

「パブリックスクールの…?」

「そう、君は飛び級だったから…あまり馴染みがないかもだけど、卒業生の実業家たちが交流を深めるいい機会なんだ。
赤目も、そのパーティーにケーキを提供するから招待されてるんだって。だから…よかったら花穎も来ない?」

「そうだな……。先約がなければ、行ってみようかな。衣更月!」

「はい。」


花穎の執事、衣更月のミルクティー色の髪が窓から差し込む日の光に煌めく。

その様子に初雪の頬に赤がさす。


それを横目に烏丸家の料理人、雪倉のパンケーキを作法を崩さず頬張る。


うん、うまい。



—————————




「赤目!」
「初雪、今は”刻弥”だろ?」
「ん…っ、刻弥ぁ…」


漆黒の髪をかきあげ、首筋を撫でる。
その手つきに初雪の身体が微かに震える。


「なんで、あんな…べつに、俺がゲイってことは言わなくて良かっただろ?」
「ん〜?いや、面白そうだと思って。」
「またお前はそうやって…!っあ!」


耳を食み、舌でくすぐる。


「でも、俺とお前がセフレってことは内緒にしといただろ?」


濡れた耳に吐息を吹きかけながら囁くと、一層大きく身体が震えた。


「ぁっ…!ば、ばか!そんなこと…花穎に言えるわけ無いだろ!?」


ソファに腰掛ける赤目の前で身動ぐ初雪。
それを逃がさないよう後ろから抱きしめ、服を一枚一枚脱がしていく。
時折背筋を指でなぞると、小さく鳴きながら身体を捻る。


————————————


「ッはぁ、ぁ…刻弥、ときや…」


顔は見えないが、うなじに熱い息がかかるのがわかる。
赤目の手が力強く腰を掴み、太くて硬いものが中を貫いてくる。
その度に目の奥がチカチカと瞬いて、自分だけではどうしようもない快感が身体中を駆け巡る。
その度に、快感から逃れようとベットの端に腕を伸ばすと
「こら、逃げるなよ初雪」と引き戻される。
情けないほど甘ったるい自分の声と、肌を打ちつける音が耳に入って羞恥を煽る。
「んぁッ!?っぁっあっぁん!」
「相変わらず、ココが好きなんだなぁ?初雪」
「はぁッ!ぁッ!〜〜ッ」
中のイイところを熱い塊で擦られ、そのまま果ててしまった。


「ぁっ…」
「おい、まだ俺が出してないぞ」
「あぁーッ!?」


絶頂の後に休む間も無く身体を揺さぶられ、2度目の快感の波と同時に熱いものが身体の中に流れ込んでくる。


「んぁ…」


赤目が初雪の中から出ると続いて白濁がゆっくりと肌を濡らす。


「じゃ、サッと風呂入って寝ようぜ」
「ん、あぁ…」


気だるさの残る身体をベットに預け、バスルームに向かう赤目の背中を見送る。


「刻弥…」


名前を呼んで、急に心が切なくなる。


「でも、俺とお前がセフレってことは内緒にしといただろ?」


数時間前に聞いた言葉が頭にガンガンと響く。


“セフレ”


赤目は初雪がゲイであることを知った夜、唐突にベッドに押し倒し、そのまま抱き潰した。
それはきっと、叶えられない恋をしている初雪が想い人以外に抱かれる様を見ておもしろがっているからだろう。
彼はいつもそうだ。


(ゲームが終わってしまったら、きっと彼は俺を抱かなくなる。)


それが寂しくて、自分の想いを偽っている。


「刻弥…」


もう一度、名前を呼ぶ。
大好きな名前。
愛おしい名前。


俺の想い人はとうの昔に変わっているのだ。



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