黄昏を射る。

□黄昏を射る。
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すれ違っても

気がつきさえされない。

あの日、


クロムが彼を拾ってきてから日に日に存在を忘れられていく。


名声が欲しかった訳ではない。


ただ、


普通に…
ごく普通に生きたかった。

…今日も空が青い。



「名前。」

振り返ると
割と近くにいた
王子にして団長、


クロム。


「戦闘?」

「いや、最近お前が空を見上げて歩いてるんで」

危なっかしくて気になった。

と言って彼は横に立ち
同じ空を見上げた。

俺もまた上を見た。

太陽を目指すようにして飛んでいた鷹と
かつての自分を重ねて。


「最近お前を城内で見かけないな。」

「見えてないだけだよ。」

そう、

みんな忘れてる。


「名前…?」


必要とされるのは
闘う時だけだ。

「…」

この先、もし永い平和が続くなら

本当に俺の存在価値は

「名前ッ!!」

「っ!?」

「…何か変なこと考えてたんじゃないのか?」

何でそんなこと、


「…後ろで指を絡ませてた。名前の癖だよ。」


そう言って王子は俺の頭を軽く撫でると

帰るぞ

と呟いて前を歩き始めた。



地に墜ちた鳥は

(もう一度羽ばたく為に)
(空を睨む。)
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