OOO

□溶かしていく様にX
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「後藤ちゃん。入るよ」





俺は一言、断りを入れてから後藤ちゃんが居る部屋に入った。

俺の顔を見た後藤ちゃんは嬉しそうに表情を輝かせたが

俺の後ろに付いて来ていた鴻上と商人を見て、一瞬で凍りついた。

やはり、心を閉ざしていたのはこいつらの所為か。






「後藤ちゃん。こちら、鴻上さんと例の市場の商人さん・・・知ってるよね?」

「・・・・・・」





後藤ちゃんは頷くだけだった。

隣りに寄り添っている、ばぁやの手をぎゅっと握っている。

後藤ちゃんは俯いて、鴻上や商人を見ようとしない。肩が震えているのが分った。

また、怖い思いをさせてしまった。

だが、後藤ちゃんを気持ちを知るためには、必要なことなんだ。許してくれ、後藤ちゃん・・・。





「後藤ちゃんに1つ聴きたいことがある」

「・・・・・・」





自分が生まれ育った場所の話をするとき、後藤ちゃんは子どもに戻ったかのように見える。

それほど、思い入れのある故郷から離れ、ココで暮らすより

故郷で元の生活をしたいのではないかと、この1ヶ月間、思い続けていた。

仕事から帰り、庭で名も分らない花を嬉しそうに植えている後藤ちゃんを見ていると

そう思えて仕方がなかった。

もう自由な後藤ちゃんはこれからどうして行きたいのかと。

後藤ちゃんが俺から離れていってしまうのかと、心の奥底の何処かで不安が蠢いていた。





「短刀直入に聞く。鴻上に付いて行くか、俺の所に残るか・・・後藤ちゃんに答えて欲しい」





故郷に帰りたい。

その言葉を聞くのが怖くて選択肢を用意してしまった。

俺の掌が汗ばんだのが解かった。極度に緊張している。





「・・・・・・」





大丈夫だ。後藤ちゃんはきっと俺を選んでくれる。だから・・・。

そう何度も心で唱えても、掌は汗でぐっしょりと濡れていくばかりだった。





「・・・俺は・・・・・・」






握っていたばぁやの手を離し、後藤ちゃんはゆっくり歩き出した。

それと同時に俺はきつく目を閉じた。

不安が今にも俺からあふれ出すんじゃないかと、思えるほど身体が硬くなり動けなかった。

人が動く気配が俺の隣りを通るのがわかった。







「・・・!・・・」やっぱり俺じゃ物足りなかったのか・・・?






俺は目を閉じたまま落胆した。




だが、人の気配は俺の隣りで立ち止まった。

降ろされていた俺の右手が俺以外の力で微かに動いた。




え・・・・・・?






「え・・・?」





隣を見ると、後藤ちゃんが俺をしっかり見上げていた。

そして・・・




「伊達さん」




後藤ちゃんの右手は俺の右の裾を遠慮がちに掴んでいた。

俺はコレまでにない喜びが不安を押し退けて、こみ上げてきた。




「俺は伊達さんと一緒に居ます」





恥ずかしそうに言った。俺は幸せだった。言葉では言い表わせないほどに。シアワセだ。





「それが君の答えかね?」





今まで黙っていた鴻上が口を開いた。

後藤ちゃんの肩が動いたのが解かった。





「・・・・・・」





後藤ちゃんは黙って頷いた。

鴻上は大げさにため息をついた。





「気が変わったらココにいつでも連絡したまえ」





懐から名刺らしき物を取り出しそれを床へ放った。

どうやらまだ諦めていないようだ。



鴻上は何も出来なかった商人を引き連れて、屋敷から出て行った。




「ばぁや・・・ありがとな」

「いいえ・・・では私は仕事に戻ります」




ばぁやが部屋を出て、部屋には俺と後藤ちゃんだけになった。

俺はすかさず後藤ちゃんの細い身体を腕で抱きしめた。




「良かった・・・」

「伊達さん・・・?」





後藤ちゃんが俺の腕の中で見上げて来た。

心配そうに見上げて来る眼を見たら、我慢していた気持ちが溢れて来た。

後藤ちゃんの頬に俺の涙が落ちた。




「伊達さん・・・?泣かないで下さい・・・」

「うん・・・後藤ちゃんごめんな・・・」





俺は後藤ちゃんの身体をよりきつく抱きしめた。

後藤ちゃんも抱き返してくれた。

今はそれが凄く暖かく感じた。

俺は後藤ちゃんの肩に顔を埋めて、泣いた。

後藤ちゃんはゆっくり俺の背中を撫でてくれた。




「後藤ちゃんが俺を選んでくれて・・・嬉しかった」

「はい」

「後藤ちゃんが鴻上の所に行っちゃうんじゃないかって、不安でしょうがなかったんだ・・・」

「はい」

「後藤ちゃん」

「はい、伊達さん」




俺は涙でぐしょぐしょになってしまって目を裾でこすった。

その仕草が子どもみたいだったのか、後藤ちゃんが吹き出した。






「伊達さんってたまに子どもみたいになりますよね」

「後藤ちゃんもたまにあるよ?」





俺の腕の中で後藤ちゃんが肩を震わせて笑った。





「後藤ちゃん、やっぱり笑った方がいいな」





涙で見えづらかったが、しっかり後藤ちゃんの笑顔が見れた。

俺の台詞が恥ずかしかったのか、後藤ちゃんは顔を赤くした。








そんな後藤ちゃんも可愛かった。








これからも色んな後藤ちゃんを見たくなった。






笑った顔。

照れたような顔。

恥ずかしくて赤くなった顔。




でも、怖がってたり、泣きそうな顔は見たくなかった。





こんなことを思うようになるなんて








もしかしたら











俺が後藤ちゃんに惚れている所為かもしれない。












そんな気がする。











・・・ to be continued
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