OOO

□溶かしていく様にY 前編
1ページ/1ページ

俺が仕事で屋敷を空けている頃。




「・・・・・・・」





後藤ちゃんは1人屋敷の廊下で壁にもたれて立ち尽くしていた。

ぼんやりと、遠くを見つめている。





「・・・・・・」





俺が屋敷にいない間は、庭師の手伝いをするのが、後藤ちゃんの仕事だ。

今は一通り仕事を終えて暇な身だった。

他の仕事もしてもいいのだが、正直人手が十分に足りており

暇になった使用人は屋敷内で自由にしていいことにしている。俺は自由主義なの。





「・・・・・・」





何処か顔色が余りよろしくない後藤ちゃん。

頭でも痛いのか、時折額に手を当てて深く眼を閉じていた。





「後藤さん」

「、あ・・・・・」





そんな時ばぁやが話しかけてきた。手には空になった洗濯籠が。

ばぁやはにっこりと微笑み、あるお誘いをした。





「一息着いた所なんです。天気もよろしいですし、皆さんで一緒にお茶でもいかが?」

「それは・・・いいですね」





後藤ちゃんは口元を緩めて誘いに応じた。

「お茶の用意をしますね」と、ばぁやが歩き出したので後を追おうと後藤ちゃんは壁から身を離した。

その瞬間、後藤ちゃんの視界が揺らいだ。





「あ、れ・・・」





壁に手を突こうと伸ばしたが、それより先に後藤ちゃんの身体は床に倒れていた。






「ご、後藤さん・・・!」






ばぁやは顔を青くして後藤ちゃんに駆け寄った。

その数分後。俺の携帯に連絡が入ったのはそのタイミングだった。

















「後藤ちゃん・・・」





後藤ちゃんは最近流行り出した軽い風邪だった。

専属の医者である藤田の話だと。





「新しい環境での生活の疲れからの疲労に目を付けられたんだろう」

安静にしていれば直に治るよ。






藤田は安心しろと言わんばかりに、俺の肩を叩いた。

何故か笑うのを堪えている。





「お前、分り易過ぎだぞ。気をつけるんだな」

「おい、何の話だ?!」






くくくくくっと、奇妙な笑いを残して後藤ちゃんの部屋から出て行った。

何なんだったんだ・・・全く。俺の何が分り易いんだか・・・。





「後藤ちゃん、具合どぉ?」




後藤ちゃんの額に手を当て、熱を計った。




「まだ少しあるな・・・今日はゆっくり休みな、俺が傍に」

「俺は・・・大丈夫です、伊達さんは仕事に・・・」




後藤ちゃんは困ったような表情をした。

だが、俺には後藤ちゃんを一人にすることは出来なかった。




「病気のとき1人は寂しいだろ?俺が居てやるから。な?」

「寂しくありません・・・いつも1人でしたから・・・」





一瞬、後藤ちゃんが何を言っているのかわからなくなった。

寂しくない?

そんなはずがない。

俺が小さい頃、風邪をひいたとき母さんが傍に居てくれた。

物心が付く前の話だが、それだけはよく覚えていた。

寂しくて、1人になると泣いて、母さん呼んで、手を握ってもらって、安心して、眠ったんだ。





「俺には・・・母がいませんから・・・1人は慣れてます」





後藤ちゃんはまた困ったような表情で笑った。

後藤ちゃんは笑ったが、俺には笑えなかった。

一ヶ月ほど前に、俺が両親の事を聞いたとき後藤ちゃんは話すのを辛そうにしていた。

それ以来ご両親の事を聞くのを止めていたから、ご両親のことを何も知らなかった。

その所為か、その事をすっかり忘れていた。





「・・・ごめん・・・・・・」

「・・・いいんです。だいぶ前のことですから」






後藤ちゃんは窓の外を見た。晴渡った空に鳥たちが踊るように飛んでいた。

それを懐かしそうに後藤ちゃんが見ている。





「母は山菜を採りに行っている時、崖から落ちてしまって・・・亡くなったんです」

「・・・!!・・・」




聞いたわけではないのに後藤ちゃんは話し始めた。





「俺が15位の時、風邪をひいた俺のために山菜でおかゆを作ろうとしてくれたんです。
 なのに、凍った雪で足をとられて、そのまま・・・逢えなくなりました」




俺の方を見ようとしない後藤ちゃん。

辛いはずなのに話し出す後藤ちゃん。

胸が苦しい。




「母は優しくて明るくて、非の打ち所のない人でした・・・」









・・・ to be continued

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ