OOO

□溶かしていく様にW
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翌朝。よく晴れた休日。



「どう?後藤ちゃん」

「す、凄く綺麗です・・・」




俺と後藤ちゃんは今、庭にあるバラ園に来ていた。

使用人として働くには、まず屋敷内を覚えてもらわなくてはならない。

そのため俺が屋敷を案内していた。

別にばぁやに案内してもらっても良かったんだけど

後藤ちゃんが余りにもオドオドしていたため、已むを得ず俺が案内しているってワケ。

ばぁやとは、仕事をしながら親しくなって貰おう。うん。



「凄くいい香りです」

「気に入ってくれたかな?」



赤や白、薄ピンク、種類的にも珍しい赤黒いバラが、バラ園には沢山咲いている。

後藤ちゃんは白いバラに興味を持ったのか、それをずっと見入っていた。

黒い髪だからか、白いバラは後藤ちゃんによく似合っていた。

今度部屋に数りん活けてあげよう。




「痛っ・・・!」

「!!」



俺がよそ見している間に、後藤ちゃんはバラの棘に触ってしまったらしく

人差し指に血の玉を作った。



「大丈夫か?!後藤ちゃん!」



俺は慌てて後藤ちゃんの手をとる。

そして、



「?!」



彼の指を自分の口に含んだ。

後藤ちゃんは丸い目を更に丸くした。口の中に血の味が広がる。

そんなのお構い無しに棘が刺さった場所を丁寧に舌で撫でた。



「これでよし!」



一通り舐め終わると口から開放して、濡れた後藤ちゃんの指をハンカチで綺麗に拭いた。

そして、皺が寄らない様に絆創膏を貼った。



「こういうのは舐めておくのが一番!」

「・・・・・・」



ニカっと笑って見せると、後藤ちゃんの大きな眼は俺を凝視した。

・・・・・・なんか不味い事したかな?



「・・・貴方も舐めるんですか?」

「え・・・?」

「痛くて血が出たら、舐めるんですか?」



まるで子どもの様に目を大きくして聞いてくる後藤ちゃん。

当たり前のことを子供に質問されて困る大人の俺。

でも、彼から質問してくれたことが無性に嬉しい俺。



「そ、俺ちゃん昔っから怪我した時は舐めるの!」

「俺もよく怪我をしたので、自分で舐めていました」



嬉しそうに目を輝かせている後藤ちゃん。

嬉しそうな後藤ちゃんを見て、嬉しい俺ちゃん。本当に嬉しい。

些細ながらも、ようやく俺たちの接点が見つかった気がする。



「後藤ちゃんってどんな所に住んでたの?」

「山と谷が入り組んだ場所です。大きな湖も家の近くにありました」

「湖か・・・魚とか獲れたの?」



こんな些細な接点だけでこんなにも心を開いてくれるとは、思っても見なかった。

人ってまだまだ分らない事だらけだなぁ。



「はい。大中小様々な魚が獲れました。どれも美味しいです」

「へぇ、食ってみてなぁ・・・野菜とか作ったりしたの?」

「小さいですが・・・畑がありました。よく南瓜や大根、玉蜀黍、茄子を作りました」



どんどん話が弾んだ。どんどん後藤ちゃんは自分のことを話してくれた。

俺は後藤ちゃんの事をもっとよく知ることが出来た。

そこで1つ分ったことがあった。



「後藤ちゃんって自然が好きなんだね」

「はい」

「じゃぁ・・・庭で花の水遣りとか・・・そうだ、新しい花を植えてくれる?
 この季節の花を沢山植えてよ」

「善いんですか?」

「勿論!庭師もいるから遣り方とか聴いて教わるといい。俺が仕事でいない間は
 後藤ちゃん暇な時間だから。庭師と一緒に庭を綺麗にしてよ」

「有り難うございます!」



ぱっと後藤ちゃんは表情を輝かせた。その表情は今まで見せてくれた中で、一番綺麗だった。

余りにも綺麗だったから、俺は思わず見とれてしまった。



「・・・どうかしたんですか?」

「え・・・?いや、何でもない!」



俺は勢いよく首を横に振って正気に戻った。いかん、いかん!我を忘れたらいかん!

後藤ちゃんは健全な青年なんだ。純粋な後藤ちゃんを傷つけるわけにはいかない。



「そういえば、後藤ちゃんのご両親は一緒に住んでたの?」

「・・・!!・・・」



後藤ちゃんは一瞬で表情を固くしてしまい、俯いてしまった。

しまった・・・。



「あ、ごめん・・・聞いて欲しくなかったか・・・・・・」

「・・・・・・」



後藤ちゃんは反応してくれなかった。もしかして、今までの苦労水の泡?!

僅かに後藤ちゃんは肩を震わせている。

その姿に俺はふと、昨夜の後藤ちゃんを思い出してしまった。

出来れば昨夜の後藤ちゃんのことは触れたくない。彼も触れた欲しいとは望んではいないと思う。

だから、俺は右手の小指を後藤ちゃんに差し出した。



「俺、約束する。後藤ちゃんを絶対に傷つけないって」

「え・・・」

「後藤ちゃんが泣いてる処を見たくないし、見せて欲しくもない。だから・・・」

「もしかして・・・昨日の・・・」



昨夜のことを思い出してほしくない。その一心で俺は後藤ちゃんを抱きしめた。

細い身体を隠して守るように抱える。大事なものを大事に運ぶように抱える。



「後藤ちゃんは俺が守るから。何も心配しなくていい・・・何も怖がらなくていいんだ・・・」

「・・・・・・はい、」



身体の細い後藤ちゃんは腕の中でうごめいた。

背中の辺りに手が回ってきたのが、温もりで分った。指が俺のシャツを掴むのも。



「先嫌なこと聞いて悪かった。ごめん」

「いえ・・・構いません」



俺はそっと後藤ちゃんの身体を離した。正直ちょっと名残惜しい。

でも、いつまでもくっついている訳にはいかない。




「よぉし!庭師に挨拶に行こうか!」

「はい」




俺と後藤ちゃんはバラ園を後にした。






しかし、1ヵ月後。

後藤ちゃんと出逢った奴隷市場では、大騒ぎになっている事を俺達は知る由はなかった。







・・・ to be continued

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