OOO

□溶かしていく様にV
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「旦那様、準備が整いました」

「そぉ?じゃぁ連れて来て」




昨夜買った彼と、まず信頼関係を築くために食事に誘った。

彼が眠っている間に用意させていた服を彼に来てもらう。

もしかしたら育ちの関係で着方を知らないかもしれない為、ばぁやに側にいてもらった。




「どうぞお入り下さい」




ばぁやに連れられて彼は部屋に入ってきた。俺は衝撃を受けた。




「わぉ・・・」




余りにも似合い過ぎていた。

灰色のYシャツに黒のベスト、ダークグレーの折り目の入ったズボン。

結構シンプルなチョイスにしてみたが、難なく着こなしている。

ファッションモデルです。と、紹介しても全く違和感がないほど、マッチしていた。


でも、ちょっと残念なのは、おどおどしがちなとこ。

自分に自信がないのかな。




「こっちおいで」

「……」




手招きすると、ばぁやから逃げるように俺の元に駆け寄ってきた。

とりあえず、俺の事はそれなりに信用してくれている事は分った。

だけどばぁやに失礼でしょうが。




「後藤ちゃん顔上げて」

「…?…」




奴隷商人が言っていた働かない意味が分った気がする。

人見知りが激しいんだ。しかも普通より激しく。







「後藤ちゃん彼女に挨拶した?明日から一緒に働く人だよ?」

「……」




後藤ちゃんはゆっくり横に首を振った。ばぁやを見ると困ったように笑っている。

逃げる様な行動には、さほど気にしていない様だ。心が広い人でよかった。




「じゃぁ、挨拶してきなさい。これから宜しくって。ちゃんと自己紹介もしなさい」

「……」




こくん、と頷いた後藤ちゃんは恐る恐るばぁやの方へ歩いていった。

どんだけ人見知りなの。俺の事許してくれたの、もしかして奇跡?!




「…ご、後藤…慎太郎です…ぉ、宜しくお願いしまs…」

「こちらこそ宜しくお願いします。分らないことは聞いて下さいね」

「…はい…」




なんと弱弱しい挨拶だろう。初めて見たって気がする、俺ちゃん。

挨拶を終えると、再び逃げるように俺の後ろに駆け込んで来た。

だから、それがいけないんだって。





「ごめんね。ばぁや」

「いいえ。坊ちゃんの小さい頃を思い出します」

「あれ?そうなの?…って、その呼び方止めてよ」

「かしこ参りました。坊ちゃん」

「……フッ……………」





俺とばぁやの遣り取りが面白かったらしく、後藤ちゃんはまた笑った。

でも、今度は俺ちゃんの後ろで見えない…(泣)





「じゃ、ご飯食べよっか、後藤ちゃん」

「は、はい、」








今夜のご飯は日本の伝統(?)料理おでん。

じっくり時間をかければより美味しいおでんを、後藤ちゃんに食べて欲しくて昼頃に電話で頼んでおいた。





「お〜、うまそぉ〜」

「……」




おでんを食べる時は自分でよそうのが俺のこだわり。その方が美味しいじゃん?




「後藤ちゃん何が食べたい?」

「え、あ……」





後藤ちゃんは何でかあわあわしながらも、鍋の中を指差した。





「そ、その黄色い袋が……」

「あぁ〜餅キンチャクちゃんね」





俺はご指名道理、餅キンチャクを取ってあげた。他にも大根や牛スジ、卵も入れてやる。

俺から器を受け取った後藤ちゃんは餅キンチャクをじっと見つめた。

そんなに気になってたんだね。後藤ちゃん。





「そんなに見張ってなくても大丈夫。餅キンチャクちゃんは逃げないよ」

「……」

「ましてや、そんなに見てたら恥ずかしがっちゃうよ」





熱いから気を付けてねぇ〜と、俺は言いながらおでんの2杯目をよそう。

その様子を後藤ちゃんは凝視。見つめるの好きね。この子。





「ほぉーら見てないで食べなよ。冷めちゃうぞ」

「は、はい……」






慌てて器に目線を戻して、餅キンチャクを睨む。そんなに睨んじゃイヤ。

得体も知れぬものを掴むように箸でそれを掴み目の高さに持ち上げる。




「あふ、あふぃ」

「……」




熱がりながらも、俺が餅キンチャクを食べている姿を確認してから、口に運ぶ。





「はふぃ!」




どうやら熱かったらしい。口に含んだまま後藤ちゃんは悲鳴と肩をあげた。




「アハハ、だから言ったんだぞ」

「……熱いです…」

「でもお餅がモチモチで美味しいでしょ?」

「…はい」




それから気に入ったのか、あっという間に鍋の中は空になった。
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