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□溶かしていく様にU
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仕事から戻る頃には17時をまわっていた。
昨日の晩に彼を連れて帰ってから、仕事に向う今朝まで彼は目を覚まさなかった。
精神的にも疲れていたのだろう。
ゆっくり寝かせて置く事にした。
俺は、ちょっと様子を見に彼を寝かせている寝室に向った。
「おはよー・・・・・・」
起こさないようにゆっくり入ると、彼は既に起きていた。
「!!」
彼はベッドの上で身体をびくッと跳ねらせた。布団で身体をすっぽりと覆い、長い前髪の間からこっちを見ている。
布団で身体を庇っている様に見える。
「あ、おはよう。よく寝れた?」
「・・・・・・」
彼は返事をする事無く、長い前髪の間から覗く目は、こちらを見ている。
その目は俺を疑っているような目だ。この至近距離で、こちらを伺っている。
まぁ困惑しているのだろう、無理もない。
「安心しなよ。俺は貴方を無理に働かせたり、胸や腹を開いたりも、ましてや犯したりもしないよ。
ただ、貴方を雇いたいんだ。是非ココで働いてくれないかな?」
「・・・・・・」
頷きも全くない。何度か同じ質問をしたが一向に反応はなかった。
ゆっくり時間をかけて俺を許して貰うしかない様だな。こりゃ。
「ちょっと待ってて」
「・・・?・・・」
俺は一回、寝室を出て、彼のためにココアを淹れて来た。一日寝ていたから腹は減っているだろう。まずは身体を温めてもらう。
使用人に食事も用意させている。
「はい、飲みな。美味しいよ」
「・・・・・・」
彼にココアの入ったマグカップを差し出す。
だが、やっぱり受け取ってくれない。まだ俺が信じられないようだ。
俺は、一口ココアを飲んで見せた。いわゆる毒見だ。
「大丈夫、何も疚しいモンは入ってないよ」
「・・・・・・」
俺は彼にマグカップをもう一度差し出しながらニコッと笑って見せた。
すると、少しだけ反応があった。
布団の間から白い手を覗かせ、こちらへ伸びてきたのだ。そして、彼はマグカップを受け取った。
俺はそれが無性に嬉しかった。
「貴方名前は?」
「・・・・・・」
ベッドの淵に腰掛けて問いかけてみる。彼はココアの飲みながら俺をただ見つめているだけだ。
それが凄く照れ臭くなり、俺は言った。
「あぁ〜そんなに見つめられると俺ちゃん、穴開いちゃぅ」
「・・・ふっ・・・・・・・」
初めて彼は笑った。初めて声を聴いた。だけど、残念なことにマグカップの陰に隠れて顔は見えない。
でも、ちょっとずつ許してもらえている気がする。
「俺は伊達明。この屋敷の現在の持ち主だ。ちょっと前まで、俺の爺さんのモンだったんだけどな」
「・・・・・・」
またじっと俺を見上げて来る。だけど先まであった疑いや伺うような目ではない。
あと一歩かしら・・・。
「貴方、明日髪を少し切ろうか。目が見えていた方がいいよ」
彼の前髪を指ですくってみた。彼はびっくりする事無くじっと俺を見詰めている。
俺はその目にドキッときた。彼は大きい綺麗な黒目だった。綺麗に黒目が縁取られ、何もかも吸込んでしまいそうだ。
例えるなら、宇宙のブラックホール。無限の重力で動きや重さを逆らって連れて行ってしまう。
これも。
あれも。
それも。
どれも。
何もかも。
俺までも。
「綺麗だ・・・」
無意識の内に感想が漏れていた。彼は大きな目を更に大きくした。
「君、名前は?」
俺はもう一度同じ質問をした。
「・・・・・・ご、とう・・・・・」
彼は閉じたままだった、口をゆっくり開いた。
「ご、後藤・・・慎太、郎・・・」
彼の声を聴いたのと同時に、彼に惚れ込んだ。
いや、彼に出会ってから、既に心は先に連れて行かれていたのかもしれない。
・・・ to be continued