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□理由は簡単、
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「……何。」
「暑いだろう。俺の家で少し休め。」
私の右手を掴んだ緑間は目的地である自宅を指差しそう言った。確かにここから自分の家に帰るのには少し疲れたかな、なんて思っていたし、お言葉に甘えようと思ったけどなんとなく気に食わない。大体疲れてしまったのはコイツのせいだし。
「やだよ。なんで?」
私がそう聞くと緑間は眼鏡をかちゃり、と右手であげた。自分より何倍もある身長のせいで見下ろされるのは仕方ないものの、なんだか腹が立った。
「なんでも良いから入るのだよ。」
グイと手をひかれてそのまま玄関に入る。それについて高尾も玄関に入った。
不本意ながらも家に入ったのは入ったんだし、とサンダルを脱ぎながら少しぶっきらぼうにお邪魔します、と言った。
緑間の自室はなんとなく想像していた通りだった。机も本棚も床も、散らかっているところは一つもない。バスケや勉強関連のものしか入っていない本棚をじっと見ていたら、緑間がそっと立ち上がった。
一階に下りてなにか飲み物を持ってくるらしい。こういうとこはちゃんとしてて好きなのにな、なんて思っていたら重たい沈黙を高尾が破った。
「あのさ、なんで真ちゃん名前ちゃんにチャリ漕がせたんだと思う?」
「……え、あー、丁度通りかかったからじゃない?」
私がそう言うと高尾はやっぱりそう思っちゃうよなー、なんて苦笑しながら言った。
思っちゃうって、別の理由があるのかな、とか考えてみたけど思いつかなかった。やっぱり私が通りかかったからなんじゃないか。と思っていたら高尾は声を潜めて私の耳元で言った。
「――…っ!?」
その言葉に驚いて声も出ないわ、顔は赤くなるわであたふたしていたらガチャリ、と部屋のドアが開く音がして緑間が入ってきた。
顔を真っ赤にしている私とにやけている高尾を交互に見て緑間は気付いたのか、高尾を怒鳴りながら顔を赤くしていく。
そんな二人を見ながら私の頭の中ではさっき高尾が言った言葉が何回も流れていた。
“真ちゃん、名前ちゃんのこと好きだから家によびたかったんだって。で、そのためにずっとコンビニで待ってたわけ。笑えるだろ?”
理由は簡単
(恋してるんです)
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