夢小説2

□紅色〜藍屋秋斉〜
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〜 紅色 〜




街中の提灯に灯りがともる。
じじっと焦げた匂いと共に町の色は塗り替えられて、
ああ、ああ、またこの時刻がやってきた。



毎夜、毎夜、訪れるこの虚しさに


いっそ貴女の自由を奪いたい。







*





せわしなく廊下を歩く足音には聞き覚えがあった。
まただ。いつも走り回っては駄目だと言って聞かせているのに仕方ない。


簪は?さぁ、どこやろうか。
わての、帯を知りまへんか?
今日の客は上客や。そない我儘を言うたらあかん。
こらこら。それはそっちやない、こっちや。こっち。

揺れる簪、擦れる着物。
耳に届くのは毎日の日常。
その中から『秋斉はんは?』と焦れたような声を耳にする。



二人だけの切り離された空気の中、
呼ばれた事が合図だったかのように閉じた瞼をゆっくりと持ち上げる。
同じように睫を揺らす彼女と目を合わせ、
ほんの少し前から重ねていた唇にもう一度。

華奢な体を引き寄せて抱き込んで、濡れた唇を啄むと
自身の肩に置かれた白い手が微かに震え、藍の着物にしわを作る。






『この忙しい時分にどこへ行きはったんや。』

自分一人では手に負えなくなった番頭の声が部屋の向こうから聞こえる。
近くではなかったが、何度も呼ばれるている事に答えなければと思った彼女が
弱く、しかし確かに俺を押し返した。


「…は…っ。」


僅かに離れた相手の唇から熱い吐息が零れ落ちる。
潤み熱を含む彼女を見下ろし額を合わせ、自身もまたはぁと息を零した。

呼ばれています。そうやね。行かないと。分かっとるよ。
そんな言葉を無言で交わし、そのまま瞼を閉じて、また口付けを。


「…っ」

抱き込んだままの小さな体に、逃がさないと己の重みを傾ける。
彼女の体が僅かに壁を擦ると衣擦れの音がした。



小さな足音、
交わされる会話。
呼ばれる声。



腕の中で身じろぎする彼女を更に強く壁と自身の体で取り囲む。

吐息を零した目の前の人を薄く目にうつせば
囲われた腕の中で歪められる眉と淡く染められた目元がやけに欲情的で。

重なりを深くした唇からまた一つ吐息が零れ、それも直ぐに己の中に消えていく。
差し入れた舌先で逃げる相手を追いかけて、擦りつけて。
舐めて、食べて、分け合って。


震える手で藍の着物を握る手はもう押し返してくる事はないのに
力の抜けていく彼女の体をより一層強く腕の中へ。

黒髪に揺れる簪に煌びやかな着物と帯。
夜の時を過ごす為に選んでやったそれを今すぐにでも取り去ってしまいたい。


合わせた下唇を甘く噛み、名残を惜しんで離すと
銀色の糸がお互いを繋ぐ。


吐息がまじりあう距離で揺れる睫を見下ろして、
色の落ちた唇にそっと指を滑らせた。





*





『そう言えば○○はんは何処へ行きはったんやろうか。』


今度は少しばかりのんびりとした女の声。
恥じらいを覚えた○○の肩が小さく跳ねて、心配そうに俺を見上げた。



「…、大丈夫や。」


腕の中の彼女を離す。

ほんの少し着崩れた着物を直し、
簪も帯も客の前に出るに相応しいかどうかを確かめてやる。
最後に落ちた紅を引き直してやろうと
紅い色を指先につけ動きを止めた。



「…。」

「どうかしましたか…?」


触れるのは先ほどまで重ねた唇で、
色を落としたのは確かに俺で。
それでも今宵も彼女は別の男のもとへひらひらと。


「…いいや。よう似合ってます。」



綺麗だよ。


着物も簪も帯も全て。
ただこの紅い色だけは、いつも良くは思えない。

この紅を付けた唇で、彼女は誰かと笑みを交わす。




「そろそろ行っておいで。」


肩を撫でで、笑みを作り、背中を押すと
彼女は少しだけ振り返り、変わない俺を見て小さく笑う。



歩き出す背中に声をかけた。

いつものように、ゆったりと。





「おきばりやす。」






この手の中に、帰っておいで


毎夜、貴女を手放す事に耐えられません。





軋む痛みを癒してほしい。



















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なんでもない話でした><
単に前回あげた話に納得いかなかっただけ。。。(/_;)




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