第一幕 舞への誘い

□その男、志々雄真実
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「あ、居た。志々雄さん」

竹林で出逢った動けぬ娘をおぶった宗次郎は、探し人を見つけ脚を止めた
「神社なんて似合わない所に居た」
ひと目につかない隠れた神社の階段で、志々雄真実はその声にやっと来たかと云うように顔を上げた
ふう、と大きくキセルふかし戻った宗次郎に目をくべる
「神仏は似合わねえか」
「そうじゃなくて。志々雄さんは騒がしくて賑やかなのが好きでしょう。だから逗留先に吉原を選んだり…ってあれ、どうかしました?」

「…オイ、何だそれは」

だが志々雄は楽しげに話すその姿に、四六時中充血した眼をぎろりと動かした
身軽な宗次郎のこと
与えた任務も卒なくこなして戻って来ただろうことは想像がつく
だがなぜか彼の背には、命令した覚えのないモノが乗っていた
状況がわかっていないのか、そのモノ、娘は志々雄と瞳が合ってもぼんやりと見つめ返すだけ
「ああ、この人ね志々雄さん。裏の山で倒れてたんですよ。だから連れてきちゃいました」
あはは、と宗次郎は笑った
煌びやかな裲襠を羽織り、重ねた衿は何十にも色が使われている
下駄は片方無いが、それ相応な物であることはひと目でわかった
志々雄は益々じろりと背中の娘を見回す
「オイオイ、何処に落ちてるってんだよそんなモン。で、肝心な事は忘れてねェだろうな」
「はい。言い付け通りひとっ疾りして見て来ました」
宗次郎は一度、背中の娘を背負い直すように身体を揺らした
すると娘の目に彼のボロボロにくたびれた草鞋が目に入る
それは余程の距離を移動したのだろうことがわかった
そして今し方、街を駆け抜けた速さに、
探していた主は全身包帯の男
けれどそんな光景を見てもまだ何の記憶も、感情も働かない
その中で娘はただ二人のやり取りを見つめていた

「十本刀全員、四半刻以内に集結できる処まで来ています」








end
 

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