短編小説置場。

□約束できない
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前から。それこそ初めて会った我侭おぼっちゃまの時から。
彼は一つだけ絶対にしないことがあった。
はじめこそ特に気にならなかったものの、彼が髪を切って変わるんだと決意した旅の途中でもそうだったのでさすがに興味を持った。
そして一度だけ、尋ねた。

「貴方は、約束事が嫌いですか」

と。
すると彼はごく当たり前のように話してくれた。


「だって俺、…『ルーク』は呪われてるから」


曰く。
ファブレ家には何代かの周期で、痣を持つ呪われた子が生まれるのだそうだ。
その痣を持った子はやがて国に繁栄をもたらす人物となる。
同時に、人間として何かしらの制約を受ける存在らしい。
その制約を破ったら、すぐに死が訪れるという繁栄という名の光の裏に存在する呪い。

それがルーク……つまり、現在のアッシュにはあった。

「ま、俺はレプリカだった訳だからそれが適用されるのか分かんねーけど…こうなったらクセみたいなもんだな」

幼い頃からの教育。
その過程で染み付いてしまったもの。
(例え本物の『ルーク』でなかったとしても)

彼は、未来の話をしない。
出来ないのだ。

「あ、ルークまた人参残してる!罰として明日一日のご飯当番ルークにするからね!」
「知らねーっつーの!誰がやるか!」

例えばこの何気ない会話。
その罰という名の提案を受け入れた場合、彼はどうなってしまうのだろう。
アッシュの持つ呪いとはいえ、完全同位体である彼にも呪いはあるのだろうか。
(きっと明日になれば、ルークは朝から調理場に立って皆の分を準備しているのだろう)
(だが今は、受け入れられない提案)

そんな光景を眺めながら、夕食を食べていたのはもはや遠い記憶。




今夜のケセドニアは静かだ。
遠くで風の音が聞こえるが、それ以外は全くの無音。
まるで町が死んでしまったように。
誰かの運命を、哀しむように。

「ルーク」

まだ寝ていなかった子供を見つけて、声を掛けた。
本当は掛けるべきではなかったのかもしれないが。
少しだけとりとめのない会話をして。
あとは殆ど沈黙のまま。

そして自分は。
次の言葉を紡ぐ、決意をした。

今までも言おうとして言えなかった、その願いを。



「私と約束を、しませんか」



他の皆も言ったであろう、それ。
約束。
彼自身との未来の、はなし。

「あの呪いはアッシュのものでしょう」

なら貴方には、降りかかることはないはずです。
なんて確証のない言葉。
そんな言葉を自分が言うようになるなんて。
(だがそれは、今自分が心から望むことだった)

だから、約束して欲しかった。

未来を。

生きていく、ということを。

こんなにも失いたくないと思ったのは初めてだったのだ。
叶わない夢のようなものだと分かっていても、彼の未来が続くことを信じたかった。
だからこそ、約束を請うた。

ああ、なのに。



「……俺も、きっと。呪われてるから」



そんなことしたら、明日戦う前にしんじゃうじゃん。




困ったような、どこか諦めたような表情で微笑む彼に。
自分は何と言えばよかったのだろう。







約束できない
(その呪いは、二人の再会を遠ざける)







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