短編小説置場。

□five senses.
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地面に置いた右手に感じるのはそこに茂る草、肩に回した左手に感じるのは彼の体温。


布を隔ててのそれなのに…そこからは確かに子供の熱が。
自分の手袋を外せば、もっと近くに感じられるだろうか。
彼の上着を全て取り払えば、更にもっと、近くに。
……なんて浅ましいことを考えた自分を、ほんの少しだけ呪った。

(貴方が悪いんですよ)

ほんの少しなのは…それが正直な感情であることを理解しているから。
感情と言うよりは、本能と言うべきそれ。


――全ての感覚が、彼の存在を欲している。


愛しい、とはこういう感情を示しているのだろうか。
自分の全ての感覚を彼と言う存在に染め上げることを求めることなのだろうか。
…いや、逆か。

愛しいからこそ求めずにはいられないのか。

こんなこと全て初めての感情。経験。
それに身を任せるのも悪くはないとすら感じる。

…どうせ誰も見てはいまい。
勝手に都合の良いよう推測したジェイドは、地面に置き去りにしていた右手を彼の頬へと添えた。
やはり頬も温かかった。
それに引き寄せられるように、顔を彼へと近付けて。
自分の唇を彼のそれに押し当てた。

軽く触れた後に、舌でその柔らかい唇を舐め上げる。
こじ開ける意思を示すような強い動きではなく。
その味をじっくりと堪能するような、ゆっくりとしてそれでいてねっとりとした…。
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