短編小説置場。

□five senses.
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冷たい風が常に体を撫でて行くこの場所で寝てしまうのは如何なものか。

「やれやれ…」

しかし、すぐ隣にある穏やかな寝顔を無下にすることも出来ない。

――ここならば夜の悪夢とは違う、優しい夢を見られるだろうか。

そんな考えを巡らせていたジェイドだが、ふと我に返って再び小さく苦笑を漏らした。
…こんな天気のせいですかね。
自分がこんなにも他人のことを考えるなど。
だとしたら明日の天気は雨か雪だろうか?

「嵐の前の静けさと言いますからねぇ…」

一人でくすくすと笑う自分は傍から見ればただの怪しい人だろう。
だが今は皆が皆この数少ない休みのひと時に夢中になっているために、そんなジェイドには誰も気付かない。


鼻をくすぐるのは少し遠くの花の香りと近くにある髪の匂い。


何だか無性にもっとその匂いを嗅ぎたくなって、頬をそれに近付けてみる。
より近くなった髪の匂い。
昔のあの長い髪とは違って、ただ朱のみを宿すそれ。
色は元より体温も暖かく、酷く心地いい。
もっと近くに、と肩に腕を回して体を引き寄せる。


聞こえるのは草木が風に揺れる音と穏やかな寝息。


近すぎる距離で、その息が頬を掠める。
定められたリズムのように呼吸を繰り返すルーク。
今、彼がどれほど安定した眠りを手に入れているかが分かる。
それが自分の傍なのだと言うことに非常に優越感を覚えて。
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