短編小説置場。

□そしてあなたは今も
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「別に何も報告することはありませんしね」

第一仮に出したとしても、差出人を見た瞬間に公爵家の従者か誰かに破り捨てられてお終いでしょう。
あながち外れてはいないその予想を聞きながら、ピオニーはつまらなさそうな顔をしている。

「ふーむ…ファブレ公爵家は堅いなーお前と似て」
「王家としては当たり前なのでは?私がお堅いのは軍人ですから、まぁ仕方ありませんね」

傍から見れば何ともまだるっこしいやりとりが続く。
今日は何故か自分もそう感じ取っているらしく、無意識に紅茶を口に含む回数が増える。
そんな様子に気付いているのか、皇帝陛下は何とも楽しそうな顔をして。

「んじゃ、俺がルークに手紙送ってやろっかな。和平を結んだ今となっては不自然じゃないだろうし」

お前と違って俺の場合は公爵家も無下には出来ないだろうしな。
ははは、と言った笑い声を聞きながらジェイドは紅茶の最後の一滴を飲み干す。
そして食器が擦れ合う特有の音を立てながらカップを受け皿へと戻した。

「…好きにしてください。それでは私はそろそろ仕事に戻りますので、陛下ももう帰ってくださいね〜」

にこお、と言う効果音が付きそうなくらいの胡散臭い笑顔をぶつけた。

「そうか?ま、ある程度暇は潰せたからよしとするか」

対して向こうは爽やかな笑顔。

…暇は他の相手で潰して欲しいものです。

これ以上何かを言うとまたややこしいので、声には出さずさっさと部屋を出るよう促す。
それに大人しく従ってくれるまでは良かった。
だがそれだけでは終わらないのがこの陛下の困ったところ。
ピオニーは去り際に何かを思いついたように立ち止まり、少しこちらを振り返って。

「俺がお前の立場なら…手渡しに来た、なんて言ってついでに会いに行くけどな」

意味ありげな笑みを浮かべながら、そう言いたい事だけ言い残して。
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