短編小説置場。

□ほしいのは、ただひとつ。
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何でもない、と精一杯の笑顔で返す。
その様子を見てどう思ったのか、ジェイドはふぅ…と小さくだが聞こえるようにため息を吐いた。
必然的にルークの体が強張る。
いつの間にか歩みは止まっており、しかしそんな二人を気にすることもなく通行人たちは通り過ぎていく。

「また変なこと考えてるでしょう」
「…考えて、ないって」

鋭い目線で射られる。
いつだってこの瞳に嘘をつけたためしはない。

でもこれだけは、知られてはいけないんだ。

知られたりでもしたら、きっとジェイドは困ったような…嫌な顔をするだろう。
分からないから。
ジェイドの気持ちが…分からない、から。

「…仕方ありませんねぇ」

その声はあまりにも小さくて一瞬何を言われたのか分からなかった。
え?と知らぬ間に俯いてしまっていた顔を上げるのと同時くらいに、左手に何かの感触を感じた。
そしてそう思った瞬間には体が前に向かって引っ張られていて。

「わっ」

驚いて足がもつれそうになったが、そこは何とか持ち直して。
何が起こったのか分からない頭が必死に今の現状を理解しようとしている。
目の前に映っているのは見慣れたコバルトブルー。
ああ、相変わらず広い背中だよな〜…ムカツクよな…とか悠長に考えている場合ではない。
ある事実に気付いた時には、そんな余裕はなくなっていたから。

目線で自分の手に纏わりつくものが一体何なのかに気付いてしまった。

それは物のような無機質で温かみのないものではなく。
かと言ってミュウのような小さな動物に触れた時のほどの温かみがある訳でもなかった。

でも、それはルークの心を満たすには充分過ぎるほどに温かいもので。
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