短編小説置場。
□それは所謂
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その存在に気付くと、ジェイドは軽く俯き眼鏡を掛けなおす動作をした。
「…ルーク、街中でそんなに大きな声を出さないで下さい。目立ってますよ」
「う…ぁ、わ、悪い」
軽い程度に忠告を入れてみる。
と、そのことにようやく気付いたのか…走ってきた子供は今更ながらきまり悪そうに項垂れた。
ルーク・フォン・ファブレ。
キムラスカ=ランバルディア王国の公爵家の一人息子。
王位第三継承者。
…の、レプリカドール。
自分が作り出した愚かな技術、フォミクリーの被害者。
…いや、本来なら被害者はレプリカである目の前の少年ではなく、被験者なのだろうが。
ジェイドにとっては、この少年も彼と等しく自分の技術の被害者なのであって。
そんなルークを前にした時に込み上げてくるどうしようもない程の罪悪感は、誰にも知られてはいない。
意図的に隠しているから、ということもあるけれど。
「…それにしても、貴方が私のところに進んで来るなんて珍しいですね。一体何があったのです?」
「別に、ただ見かけたから…っつか、一緒にいたらいけないのかよ」
「いいえ…別に、そんなつもりで言ったのではありませんが」
彼もまた、この街を救った英雄みたいなもので、きっとあの中でも一番の功労者。
出会った頃はそんな言葉が似合わない我侭坊ちゃんだったにも関わらず、今はその言葉が痛いほど似合う。
―それもまた、自分のせいなのだと。
自分が愚かな技術を生み出したせいで生を与えられ。
心の底から慕っていた師にはただ散々飼い慣らされていた挙句、見捨てられたこの悲しき少年。
自分が…などと、今更分かりきったことであるのにそれを頻繁に思い出しては嘆く自身を鼻で笑いたいくらいではあるが。