短編
□ラバー
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「ごめん」
アスランが覆い被さるように抱きついてきた。
首筋に小さく震える吐息を感じる。
「謝るなよ」
「ごめん…俺、君にひどいことを」
「気にするな…私のせいだろ?アスランが、苦しい思いしてるのは」
名前を奪うことで私の知らないアスランを消した。
私だけがいいなんて、醜い思いを持っている自分を隠しながら、身動きができないように縛り付けた。
すべては彼に依存することしかできない、弱い私のせい。
「私、お前にひどいことをされた」
半ば強制的に身体を開かされた。
力ずくで押さえつけられて。
「だけど、もっとしていいんだ。だってアスランだから」
なんだって受け止めてあげたい。
私一人だけが。
「私、お前がどうしようもなく好きなんだ」
アスランが心のすべてをさらけ出せるのも、弱い部分を見せられるのも、私だけでいて。
「ごめんな、カガリ…」
「だから謝るなって」
「こんな、ひどいことばかり…君だって辛いことがたくさんあるのに」
「私はお前がそんな顔してることが、一番辛いぞ」
「優しいな、カガリは」
違う。
私は首を横に振った。
私の我が儘で苦しい思いをしてるというのに、私の傍にいてくれる。
本当に優しいのは、アスランの方だ。
「俺も、カガリが好きだよ。カガリだけが好きだ」
「うん…」
「だから、ひどいことはしたくない。だけど君が離れていってしまうんじゃないかと思うと自分をうまくコントロールできなくなってしまう」
「私が離れていくって、思ってるのか?」
「永遠なんて何処にもないだろう?」
「お前なぁ…ネガティブすぎるぞ」
もしかしたら泣いているのかもしれない。
顔を上げようとしないアスランの頭をよしよしと撫でてやる。
「先のことよりも今のことを考えろよ。永遠に側にいるって、そんな約束はできないけど。今の私はずっとお前といたいって…そう思ってるぞ」
ゆっくりとした動作でアスランは顔をあげた。
微笑みを浮かべる、その目尻にはやはり泣いたような跡があった。
「カガリはポジティブだな」
「ハツカネズミよりマシだ」
「なぁ…君をもう一度、抱かせて?」
「え…」
忘れていた熱で下半身がドクンと大きく疼いた。
「今度は優しくするから」
そして甘ったるいキスで強請られたら、もう頷くしかなかった。
「カガリ、カガリ」
「アス…」
「好きだよ」
もう訳のわかられなくなった頭にアスランの声だけが響く。
小さく呻いたアスランの声すら、気持ちいいと思った。
やけどしてしまいそうなくらい触れ合う肌が熱い。
アスランが好き。
頭にあるのはそれだけ。
でも、今はそれだけで十分だった。
「もっ、ダメ…ッ」
「カガリ…っ」
「ひっ、あ…っ!」
白い世界に落ちる瞬間に見たものは碧の瞳からこぼれた一筋の涙だった。
あぁ、どうか泣かないで。
愛しい人。
fin
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