短編

□だめ
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あぁだめだだめだ


くるしいくるしいよ


ここはどこ

いきができない


たすけて

もう、だめになる








だめ







閣議室から飛び出して、外へ出た。


見晴らしのいい道に出て、大きく深呼吸。

それでもまだ息苦しくて。


「カガリ」

後ろからかかる、この優しい声が好き。

名前を呼ばれるだけで胸のつかえがなくなるのは、どうしてなんだろう。


「アスラン…」

「いきなり飛び出していくからびっくりした」

「あぁ、ごめん」

「どうした…?」

「何が?」

「泣きそうな顔してる」

ほんと、こいつズルイ。

私のこと、すぐ見抜いてくる。


ふいに抱きしめられて、暖かい体温にふれる。

広い背中に手を回して力を込めると、耳にキスされた。


「泣くなよ」

「泣いてない」

「泣いてもいいよ?」

「っ…」

なんだこいつ。

ほんとにもう。

腹が立つのに愛おしくてたまらない。

胸いっぱいに愛しい香りを吸い込んで、こみ上げてくる涙を我慢するのをやめた。


目を閉じると浮かぶのは、閣議中の冷めた瞳。

まるで私の意見なんて、聞く気もない。


『代表はコーディネーターがお好きなようですからね』

『妄想ばかりの理想はボディガードの彼にでも聴いてもらいなさい』


私の弱点がアスランだってみんな気付いてる。

相手に弱点を見せるなんて、政治家として最低だ。

でも。


「カガリ」

「アスラン、好き…」

こんなに愛しい響きを、忘れるなんて。

「ん…俺は愛してる」

「意地悪」

こんなに優しい気持ちを、忘れるなんて。



「ちょっとは元気でた?」

「ん…ありがと」

好き好き大好き。

私には忘れるなんてできない。


初めてなんです。

こんなに人を愛おしいって思ったのは。

憧れでも、親愛でもなくて、愛おしいんです。


「慰めたご褒美がほしいな」

「…仕方ないなぁ」

そう言って素直に目を閉じると、すぐに触れ合う唇。


触れ合う熱がもっともっと欲しくて堪らない。

だけど。

あぁ。

だめだだめだ。

駄目になる私もアスランも。


だけどもう少しだけ。

初めての恋に溺れさせてください。


早くやめなくちゃ。

だめになるまえに。

だめだだめだ。

こんなの。


だめ、なのに。



fin


.
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