短編

□理由
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どうして私なんだろうか。


もっと可愛い子も、もっと優しい子も、たくさん居たはずだ。


ねぇ、どうして?





《理由》







窓から入る風が冷たくなった。

半袖の腕にじわりと寒さを感じて、カガリは読んでいた雑誌を閉じてソファから立ち上がった。

窓から見上げた空は青く、白い雲がまばらに散らばっている。


「夏、終わっちゃうんだな」

「あぁ、もうすぐ秋だ」

独り言に返事をくれたアスランはソファに座り、カガリには到底理解のできない電子工学の本を読んでいる。

「なんか…寂しいな」

茹だるような暑さが、今となっては恋しい。

「そうだな」

「ん…」

少し切ない気分だ。

冷たい風がそうさせるのだろうか。


「カガリは秋、好きだろう?食べ物がおいしくなるから」

アスランは顔を上げずにそう言った。

いつものことだ、アスランが本を読み出すとなかなか顔を上げないのは。

わかっているはずなのに、カガリは何故か不安になった。

常々、心の隅の方で感じていた小さな不安が一気に膨れ上がってカガリの胸をいっぱいにしていく。


「なぁ、アスラン」

「ん?」

「どうして私なんだ?」

「え…?」

カガリの変化に気づいたアスランとようやく目が会う。


「どうして、私のことが好きなんだ?」

もっともっとアスランに似合う子がいるはずだ。

私なんかじゃ、アスランとは釣り合わない。

そうやって改めて考えると、自然と涙がこみ上げてきた。

「カガリ」

アスランはソファから立ち上がってカガリに近づいた。

アスランの言葉が怖くて思わず後ずさる。

けれどカガリのすぐ後ろには窓ガラスがあって、アスランはあっと言う間に距離を縮めた。

「カガリだからだよ」

「え?」

「カガリがカガリだから、好きなんだ」

カガリの頬を伝った涙を払いながら、アスランは答えた。


「逆に聞くけど、カガリはどうして俺が好きなの?」

「そんなの知るかよ」

「どうして?」

「だって、気づいたら…って感じだったんだ」

気づいた瞬間、自分でもびっくりしちゃったんだから。


「俺もそうかな。最初は変な奴って思ってたし」

会った瞬間は男かと思った。

そう言って笑いながら、アスランはカガリの体を包み込む。

「それ、キラにも言われた事あるぞ。親友だからってそんなところまで似るなよっ!」

ちょっとムッとしたけど、アスランの腕に包まれたらどうでもよくなって、いつの間にか、涙も止まっていた。


「どうして俺がカガリを好きになったか、わかった?」

「うん、なんとなく」

でも、嬉しかった。

はっきりした理由はないのに、なぜか安心した。


「お前も私も、同じだったんだな!」



好きに理由なんてない。




fin
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