短編

□WANT
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「シン」

苦しそうに、それでも精一杯笑う君の顔が、殺伐とした状況の中で、どれだけ救いになっただろう。





『WANT』




「ステラ…」

「ん…」

シンは時間に余裕がある時は必ずステラの元を訪ねていた。

初めのうちは早く帰れと怒った医務員も、最近では呆れた様子でシンを見ていた。


わかってる、アンタらにとってステラは敵なんだろ。

「シン…怖い、ここ」

「大丈夫、俺が守ってあげるから」

「ぅん…」

それでもシンにとっては、たった一人の大切な女の子だった。


誰にもわかってもらえなくたっていい。

君は俺が守ってみせる。


ベッドに力なくうなだれた、細くて白い手をシンは力強く握った。

ステラもそれに答えて握り返してくれる。


「シン、痛い」

「ごめん…」

「シン…?」

痛いと言われようが、シンはステラの手を離せなかった。

暖かい体温はステラがそこで確かに生きている証拠。

どうして誰もステラを助けようとしないんだ。

敵、だから?


いつだったか、上司が言っていた言葉を思い出す。

『敵って誰だよ』

彼は知っているのだろうか。

敵という存在を。


「シン…」

いつの間か深く考えてこんでいたのか、ステラが心配そうな目でこちらを見ていた。


「何?ステラ」

「シン…ステラ、守る?」

「うん、俺がステラを守る」

「ステラも、シン…守る」

「うん…」

ああ、どうしてステラは敵なんだろう。

こんなに愛しく思うのに。


「シン…?」

「ごめっ…ごめん、ステラ」

何もできない自分が悔しい。

目の前で苦しんでいる彼女を知りながら、話し相手になってやることしかできない自分が悔しい。

泣きたくないのに、涙が止まらない自分が情けない。


「泣かないで…泣かないで、シン」

優しい手がそっと涙を払ってくれる。


ステラの手を握り返しながら。シンは強く思った。


力が、ステラを守れる力がほしい。


もし神様がいるのなら、愛しい者を守る力をください。


もう二度と、失うことのないように。




fin
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