短編

□Dreaming
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帰ってきた、と思えたのは

仲間の顔を見たときではなく

君の小さな身体を抱きしめた時だった




Dreaming




「アスラン…っ!」

一台の車から一人の少女が駆けだしてくる。

彼女は目にいっぱい涙を溜めて、俺の名前をよんだ。

その声で気づいたのか、ほかの奴らが次々と顔を出す。

「カガリ」

彼女の名前を呼ぶと、何故か肩から力がぬけるのを感じた。

カガリは走ってきた勢いのまま飛びついてきた。

「っ…」

咄嗟に抱き留めたが、先ほどの戦闘で負傷した傷に響いた。

思わず顔を歪めると、カガリがはっと顔をあげる。

「どこか怪我したのかっ?」

「…いや、大丈夫だ」

とは答えたものの、素早く身体を離したカガリに目敏く脇腹に滲む赤い染みを見つけられてしまった。


「お前また怪我して…っ、とりあえず手当だ!」

「いや、本当に大丈夫だ。掠っただけだから」

「でもっ…」

ほら、そんな風に。

君がまるで自分の負った傷のような顔をするから、怪我をするのは嫌なんだ。


目尻の涙を指で払ってやってから、カガリの左手をとる。

きょとんとした彼女を横目に、その柔らかい手の甲に口付けた。


「あ、アスら」

「姫様はこの命に換えましてもお守りいたします」

それが自分の存在理由だと思うほど。

誰のためでもなく、自分のために。


アスランが顔を上げると、カガリの顔がくしゃりと歪んだ。


「私なんていなきゃよかったのに」

「カガリ」

「私がいなかったらみんなもアスランも…こんな風に逃げたり怪我しないでも済んだのに」

もっと幸せだったのに。

カガリは泣き出しそうな声で言った。



「俺は、そんな風に思わない。今まで旅してきた街で出会った人たちも言っていただろう?『カガリ姫は希望の光』だって」

「…うん」

「カガリはその人たちの希望を背負って生きなきゃいけないんだ。だから、そんなこと言うな」

「そうだよな…私、みんなの希望だもんな」

そのことがカガリの負担になっていることを知っている。

それでもアスランは今の状況に感謝せずにはいられなかった。

一国の姫とその親衛隊長が触れ合うことなんて、普通ではありえないのだから。


アスランは目の前にある小さな身体を抱きしめた。

隣にいられることを噛みしめながら。


「ただいま…」

「おかえりなさい」

当たり前のように背中に回される手が愛しかった。



姫に対する感情を自覚したのはいつだっただろう。

遠い昔のようで、ついさっきのような気もする。

好きだと言えればどれだけよかったか。

だけど今はそんな贅沢を言ってられない。

触れ合えたことが奇跡だというのに。



「しばらくこのままで」

「うん」




いつか君が王座につく、その日まで。



fin



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