本棚:OT

□バッドエンドの向こう側
1ページ/1ページ




ようやく手に入れた、幸せな夢だ。









MEIKOが発売されて、一人残されてから死ぬもの狂いで歌を歌った。

そして、数年かけて僕も外の世界へ出ることができた。

インストールされたパソコンの中で、あのお別れの日から何も変わらない、彼女に会った。


「貴方がKAITOね。はじめまして、私はMEIKO」

あぁ、一つだけ変わってしまったところがあったね。

君は、僕を、あの日の僕らを覚えていないんだったね。

ズキンと、胸が痛い。

でも悲しさより再会できた喜びの方が大きくて、僕は自然と笑顔になっていた。

「はじめまして、めーちゃん」




その日の夜、めーちゃんが僕の為に歓迎会を開いてくれた。

と、言っても二人だけだし、料理は買ってきたものだったけど。
(昔からめーちゃんは料理が苦手だった)

それでも、今まで食べた料理の中で一番おいしく感じられた。

そしてその光景は、めーちゃんの忘れてしまった日々に少し似ていて、思わず目頭が熱くなった。


外の世界に来てからめーちゃんはお酒というものを飲むようになったらしい。

僕はそんな彼女に付き合って飲んでみたけど、そんなにおいしいとは思わなかった。

甘みが足りない気がするんだ。

もっと…めーちゃんの香りみたいな柔らかい甘さが。

そんなことを考えていたら、頭がクラクラしてきて、僕はそのまま眠ってしまった。



そして、目を覚ました僕が初めに見たものは。

あの日から忘れもしなかっためーちゃんの寝顔だった。


ソファで横になっている僕に寄り添うように彼女が眠っている。


あぁ、これはもう本当に。

「昔みたいだ…」

ズルイよ、めーちゃん。

忘れてしまったくせに、こんな風に、本当は覚えてるんじゃないかって、期待させるなんて。

目の前にある柔らかい頬にそっと触れてみた。

すると、ゆっくりとした動作でめーちゃんが目をあけた。

「…か、いと、くん?」

「おはよ、めーちゃん」

「どうして、泣いてるの?」

赤い爪と細い指先が、僕の頬に触れる。

こんなに近くにめーちゃんがいる。

ねぇ、これはもしかして夢なの?

ただ一人のボーカロイドの背中を追い続ける哀れな僕に神様が見せてくれた奇跡ですか?


「夢じゃないよね?」

「えぇ」

頬を撫でていた赤い爪が、ぎゅっと肉を摘む。

痛い。

…夢じゃない!


「カイト」

「あ…」

僕の名前を呼ぶその声は、今までのよりずっと特別な響きに聞こえた。

「会いたかったわ…カイト」

ふっと表情を緩めて花のように笑う。

僕は昔からその笑顔が大好きでした。


「め、ぇ…ちゃん?」

ねぇ、君は。

「メイコ、もしかしてあの時のことを…」

覚えているの?

その言葉は再び瞼をおろしてしまったメイコには届かなかった。

でも、僕の名前を呼んだメイコは、僕の知っているメイコだった。


ねぇ、いつかは思い出すのかな。

いつまでも続けばいいと願った日々、そして身が裂かれるように苦しかった別れの瞬間を。

そのときまで、僕が君の分まで覚えておくから。


だから今は、ようやく手に入れた二人の時間を大切にしようと思う。


「おやすみ、めーちゃん」



これからも、よろしくね。







20100714


人気の他ジャンルを書くとなんだか恥ずかしい///

あ、補足します。

めーちゃんは寝ぼけてて自分でも何を言っているか自覚がありません。

無意識下での行動です。

プロトタイプの時の記憶は、完全に消えたわけじゃなくて、形跡が残ってる、みたいな感じ。

たとえるならパソコンでいらなくなったファイルをゴミ箱に入れる、かな。


てか、めーちゃんめーちゃんうるさいなw

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ