白昼夢

□其の二
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ある日のことだった。
いつものように起きて、財布と籠を持って、今年で6歳になる娘のさよの手を引いて、朝市に行くために玄関の戸を引いた。
1歩外に出て、一瞬本気で医者に行かなければと思ってしまった。
家の外は、晴天の時には、生まれ故郷である日本が望める海と、広い、白い砂浜があった…はずだ。
それが今、同じような大きさの西洋の屋敷がたくさん立ち並んでいる。
地面も、土でも、もちろん砂でもない、石のように固い。
夏のか、どこかでせみが大合唱している。
「……暑い」
きっと夢だろうと、家に入ろうとその光景から踵を返す。

「あれ?……千鶴…だよな。お前なんでそんな恰好してんの?ってかなんでここにいんの!?」
後ろからかけられた声に、まさかと思って振り返る。
そこにいた青年が、顔を赤くして立っている。
「へ…いすけ、くん?」
「ん?どうした?」
「平助くん!!」
青年――平助に抱きつく。
なぜか、自分より小さい気がする。
「あぁ、夢なら醒めないで……」
変若水を飲んで、羅刹として生き、死んでしまった人。
その姿が見れるのは夢でだけ。
あの人と同じ。
「ち、千鶴?どーしたんだよ。なぁ、千鶴、泣くなって!」
その時、千鶴の後ろの自動ドアが静かな音を立てて開いた。
そして、そこに立っていた2人を見て、平助はあわてて自分に抱きついている千鶴を見た。

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