東方外来宴 〜 Living of Guests
□1章:智宏は見知らぬ地に立ち、そして馬鹿になった。
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|前田智宏《まえだともひろ》は呆然としていた。
「…………」
近所の神社にて寄り道ついでに参拝し、一礼して顔を上げると、全く知らない神社が目の前にあったのだから。
「…………はぁ!?」
智宏の訪れた神社は普段は人の出入りがほとんどなく、神聖な感じがする一方でどことなく寂しい雰囲気を醸し出していた。しかしそれは荘厳と表現するにも近いものだった。しかし現在智宏の目の前に存在する神社はどうだろうか。寂しさはあれど、荘厳さはほとんどない。しかし生活感はあるという、言い得て妙でありながら親近感の湧く、そんな雰囲気を纏っている。例えるなら、そう、
『智宏の自宅』
もとい、
『田舎で1人暮らしをしているお婆ちゃんの家』
という表現が一番だろう。
そんな神社の前に智宏はただ1人佇んでいた。
「……待て。マテマテマテマテマテマテ。何でやねん。何でこんな所にいるの俺。てか此処何処? 何ですか? 俺っていつの間にワープ使えるようになったの? いつの間にここ来たの? 何だ?『ともひろ は ルーラ を おぼえた!』ってか? ハッハッハッ……
――んな訳あるかアアアアア!!」
智宏は混乱する。というかせざるを得ない。あたり前田。
「何でこのルーラ目的地が決められないんだよ!『ルーラで街まで戻ろうとしたら魔王の目の前に来ました』なんてことになるぞ! 目的地の決められないルーラなんてルーラじゃねえよ! つーかそもそもルーラなんて存在する訳ねーじゃん!! じゃあ何で俺はここにいるんだよ!! 知らねーよ!! つーかマジで此処何処――」
「五月蠅い!!」
取り乱している智宏に、背後から竹箒クラッシュが発動した。
》》《《
幻想郷。
忘れられた者、架空の存在として見なされた者、使われなくなった物。そんな輩が集う場所。
この幻想郷に訪れることを俗に幻想入りと言うが、幻想入りをするケースは以下の通り。
ひとつ、外の世界――つまり我々が住む世界で上に書かれたような存在になり、幻想郷に流れ着くケース。
ひとつ、死者が何かの手違いで幻想郷に迷い込むケース。
ひとつ、幻想郷の管理者、八雲紫の手によって招かれるケース。
ひとつ、幻想郷を覆う結界を破って侵入するケース。
幻想入りは基本的に前者2つが主な
原因である。
しかし、智宏は違う。この男は忘れ去られたり、死んだりはしていない。――と、智宏が流れ着いた神社の巫女である博麗霊夢は予測する。
「(だけど、この人が結界を破って侵入してきたようには見えない。となると紫が連れてきたのかしら。でも何のために――)」
霊夢が智宏の幻想入りについて考え込んでいる一方で、|卓袱台《ちゃぶだい》を挟んで霊夢の向かい側に座っている当の本人はというと、
「(この巫女さんの服、コスプレみたいだな。袖どーなってんの。服と袖が繋がってないじゃん。袖だけ独立してんじゃん)」
どーでもいいことを頭の中でツイートしていた。どうやら先程の竹箒クラッシュのおかげで冷静になれたらしい。
そんなアホみたいなことを呟いている智宏の頭の中に、その言葉は唐突に現れた。
『冗談を実現する程度の能力』
「(――は? 何だ今の……)」
頭の中に割り込んできたワードに対して疑問を抱く。やがて厨二病が再発したのかという結論に至ったが、それだけだった。また、目の前の巫女服に思考が行ってしまった。
「貴方」
「んお?」
その時、
思考の海にどっぷり浸かっていた筈の霊夢が智宏に話しかける。
「一応訊くけど、ここが何処だか分かってる?」
「古びた神社」
「殴るわよ。そうじゃなくて地名よ、地名」
「俺が当てたら幾らくれる?」
「うん、分かった。もういいわ」
今の智宏の答えで霊夢は確信した。智宏は結界を破って侵入したのではないと。
「新日暮里!」
「残念。ハズレ」
となると、霊夢は独断で智宏を外の世界へ帰すことが出来なくなった。八雲紫に智宏を幻想郷に連れてきた理由を尋ね、それから智宏をどうするかを話し合う必要が出てきたからだ。
しかし霊夢は紫が何処にいるかなんて知らないので、あちらから現れない限り話し合いは出来ない。
だが、その間智宏を野放しにすることは出来ない。妖怪が普通にいるこの幻想郷で野放しにするのは危険だというのが理由の1つだが、それとは別の理由もあった。
霊夢の勘が告げているのだ。この男を野放しにすると、なんやかんやで面倒なことになりそうだ、と。
故に霊夢は智宏に告げる。
「いい、よく聞きなさい」
「何どすか」