少女漫画みたいなお話。

□K9
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その日の午後ー、

雄「さぁー、『K9』午後はみっちり言葉の勉強をするぞっ!」

俺は真剣に『K9』に言葉を覚えさせようと、『K9』が興味を示しそうなDVDや幼稚園や小学校で使われるような教材を用意した。…けど、何を見せても聞かせても『K9』は一向に興味を示さずベッドにゴロンと寝転がっては、犬のぬいぐるみを持ち上げてみたり抱き締めたり…
全く言葉を覚える気など無いようだった。

雄「え〜っ?コレもダメ?『K9』犬好きだろ?犬が出て来る言葉遊びなら楽しくないか?」
増「おー、おー、やってますなぁ〜っ゛」

俺がガラスケース越しに身振り手振り『K9』に話しかけていたらまた、増田がやって来た。

雄「なんだよっ゛またお前かよ、」
増「なんだよは無いだろ?せっかくイイもん持って来てやったのに、」
雄「イイもん?なんだよ?」
増「ジャーン!俺が開発したバイオ野菜!ジャガ人参玉葱クンだ!」

増田は後ろ手に持っていた袋から見たコトも無い野菜を俺の前に突き出した。

雄「ジャガ人参玉葱?なんだ?ソレ?」
増「コレ1つでジャガイモ、人参、玉葱の味が楽しめるのさ!カレー作る時に便利だろ?ビーフシチューとかさっ゛」
雄「馬鹿馬鹿しい。今の時代、どこの誰が野菜切るトコロからカレー作るんだよ、今はレトルトが当たり前なのに、」
増「あ〜↓お前もかぁ〜↓東堂教授にも同じコト言われたよぉ〜ナンセンスだってよぉ、↓」

そう言ってガクリと肩を落とす増田。彼もこの研究所では異端児で、なかなか研究成果が上がらない俺と同じ立場の人間だ。

因みに、今朝から俺達が口々に出している『東堂教授』と言うのは、科学者でもあり、この研究所の理事長でもある。

雄「まぁー、そう気に病むな。いつか東堂教授に認められる研究が出来るさ、」
増「いつかっていつ?マジで俺ヤバいんだぜ?下手したら来月にはココに居れないかも…」

増田がそう項垂れている時だった。『K9』が、ガラス越しにこちらを見ているのに気付いた。

雄「なんだ?『K9』何か気になるコトでもあるのか?」

俺が聞くと、『K9』が指を差した。

増「えっ?ジャガ人参玉葱を見てるのか?」

増田の言う通り、『K9』が興味を示したのは増田が持ってる野菜だった。『K9』
は、どんどんコチラに近付いて来て、最後には手を伸ばしてきた!

雄「そうみたいだ!『K9』が興味を示した!増田!そのジャガ人参…」
増「ジャガ人参玉葱」
雄「ソレ!くれよ!『K9』に渡してみたい!」

俺は興奮しながら、増田に頼んだ。

増「イイよ!元からお前にやるつもりで来たんだ。何なら、『K9』に調理させてみたらどうだ?案外料理好きかもよ?(笑)」
雄「料理?『K9』に?」

「中丸さん?」

ーと、俺が増田と話してる時だった。

雄「美月さん」

研究室のドアの前に立っていたのは東堂美月さん。
東堂教授の娘さんだ。

「近くまで来たものだから、父に会いに…」

そう言って、研究室に足を踏み入れた美月さんはおよそこの殺風景な研究所には似合わない淡いピンク色のワンピースを着ていて髪は前髪ぱっつんロングの巻き髪。バックや靴やアクセサリーも全てブランド品らしい如何にもお嬢様に見えた。

増「東堂教授に会いにいらしたんですか?教授なら、確か学会に…」
「そうなの。…私、知らなくてココに来て初めて知ったの。」

雄(嘘だな。)
増(ああ、絶対嘘だ。)

俺と増田はアイコンタクトしながら頷いた。

何故嘘かというと、美月さんは昨日もこの研究所に来ていて、今日からしばらく東堂教授が学会で留守にするコトは知っていた筈だからだ。

何だってそんな見え透いた嘘をつくのかわからないけど、美月さんは困った顔をしてクネクネしなを作り始めた。

雄「どうかしたんですか?」
「私、お父様と帰るつもりでいて黒田を返してしまったの。…困ったわ。車が無くっちゃ帰れない、」
雄「ああ、ソレならこの研究所から駅までのシャトルバスが…痛て!」

俺が窓の方を指差し美月さんに伝えようとしたら、増田に思い切り足を踏まれた!

雄(何すんだよっ!イテーなぁ!)
増(イイからっ!シッ!)

増田は足を持って痛がる俺に人差し指を口元に立てて「黙れ!」とポーズして見せた。

「中丸さん、送って下さらない?私を家まで、」
雄「えっ?俺が美月さんを?」
増「そうだな!そうしろよ!…ホラ、美月さんもお困りのようだし、お前車だろ?」
雄「そうだけど…俺、今日は『K9』に付きっきりで過ごそうと思ってて…」
「『K9』?」
雄「あ、俺の…いや、僕の研究ロボットです。コレが『K9』」

俺はガラスケースの中に居る『K9』を美月さんに紹介した。

「キャッ!この子、裸よ!」
雄「ああ、すみません!どういうワケかコイツ服を着てくれなくて…『K9』ほら、ご挨拶は?」

真っ裸の『K9』を前にビックリした様子で両手で顔を隠す美月さんを何故か『K9』は不機嫌そうな顔をして見詰めていた。

雄「どうしたんだ?『K9』こんにちは、は?…やっぱり無理なのかなぁ〜…いきなり挨拶はハードルが高いか、」
増「おい!中丸!」
雄「うん?」

俺はほんの少し期待をしていたのだ。『K9』は未だ女性を見たコトが無い。だから、ひょっとしたら美月さんを見て今までに無い行動に出るんでは無いかと想像してみたのだ。
そんなコトを考えていた俺に増田が小声で話しかけて来た。

増「お前っ゛コレ、チャンスかも知れないぞ!」
雄「はぁ?何が?」
増「美月さんだよ!ありゃ、どう見てもお前に気があるとしか思えない!」
雄「えっ?美月さんが俺に??」

俺は増田の話を俄には信じられず目をパチパチさせてから後ろに居る美月さんを見た。

美月さんは「キャーキャー」言いながらも『K9』をずっと見ていて、『K9』自身も何処で覚えたのかシーツを使って上手に股間が見えそうで見えない仕草をしていた。

増「な?ああ見えて美月さんは男には興味津々だっ゛ココは1つ美月さんを家まで送って好印象を植え付けて来いよ!上手く行けばこの研究所に残れるし、まさかの逆玉も狙えるかもよっ゛♪」
雄「逆たまっ!?」
「玉って…?なんですか?」

さっきまで、『K9』を見て「キャーキャー」言ってた美月さんが急に俺達の近くに来ていて驚いた!

増「いやいや!何でも無いです!どうぞ、美月さん、中丸を運転者にさせてやって下さい!」
雄「おい!増田!何を勝手なコトを…っ!」
増「シー!『K9』のコトは俺が面倒見るからっ!お前はお前の仕事をして来い!」

増田は俺の首を締めらんとばかりにガッツリ肩を組み首に腕を巻き付け耳元で囁いた。

「本当に?イイんですの?」
増「イイんです!イイんです!どんどん連れてって下さい!」
雄「おい!増田っ!」
「本当に?…嬉しい!中丸さん!お願い致します!」

美月さんもすっかりその気になって、俺はやむを得ず美月さんを自宅まで送るコトになってしまった。


雄「イイか?余計なコトはするなよ?夜の10時には消灯しろよ?」
増「わかってる、わかってる、…お前こそシッカリやれよっ゛期待してるぞっ゛♥」
雄「なんの期待だよっ゛♥飛ばすなよ!気色悪い!」

俺は美月さんを待たせ着替えをしながら増田にボヤいた。

増「ジャガ人参玉葱は渡してイイのか?」
雄「いや、まだ渡さないでくれ。初めて触れるモノにどんな行動を示すか知りたい。今夜は一先ず、俺が用意したDVDを見せて本でも与えておいてくれ、」

俺はそう言って机に置いていた『桃太郎』や『カチカチ山』の本を増田に見せた。

増「了解!『k9』のコトは任せとけ!行って来い!」
雄「頼むぞ!くれぐれも変なコトはするなよ?」
増「わかった!わかった!早く行って来い!」
雄「『K9』!行ってくるぞ!俺が帰るまでイイ子にしてろよ?」

俺はキョトンとした顔で俺を見送る『K9』に言って、増田に追い立てられるように研究室を後にした。
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