10Ks!

□ぴぃの憂鬱 - 2 -
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『Tha Music Day』のリハが終わると、亀に挨拶するのもそこそこに俺は一条さんの運転する移動車に乗り込み〇ジテレビへと向かった。

「座席に昼食を用意しといたから食べておけ。向こうに着いたらすぐ撮影だからな、」
智「はぁーい、」

俺は後部座席に座って横を見ると、シートにタッパーが2つ入った黒いバックを見つけた。

智「今日のお昼はなぁーにかなぁ〜っ゛♬ おっ!ササミのサンドイッチだっ゛♬」

1つ目のタッパーの中身は二種類のパンを使った鶏のササミのサンドイッチ

きちんとお手拭きも付いている。

智「いただきまぁーす!
うん❤美味いっ゛コレ、ピクルス入ってるっ゛❤」

俺は1口食べてほのかな酸味がアクセントになってて美味い!と素直に感激した!

「ロールパンの方な。ピクルスを刻んでマヨネーズであえてあるんだ。」
智「へぇーっ゛レタスもグリーンリーフなんか使って凝ってるじゃんっ゛♫

ココまで聞いてお気づきだろうか
実は、このサンドイッチを作ったのは一条さん本人なのだ。

え?「なんでマネージャーが昼飯を作るのか?」って?

答えは簡単。
俺が〇ジテレビの弁当が油っこ過ぎて嫌だと駄々を捏ねたからだ。
もちろん、毎回一条さんが作るワケじゃないよ。
大概は、俺のお気に入りの味の店でテイクアウトして来たランチを食べるけど、たまたま店が開いてなかったり遠かったりすると一条さんが自ら作ってくれるのだ。

因みに、このコトは俺と一条さんだけの秘密
まさか、タレント全員に同じようには出来ないし、ましてや仮にもチーフマネージャーが1タレントの弁当を作る。なんて、有り得ない話だからね。

「お前が見た目もうるさいからだ。もう片方も食べてみろ。」
智「ハイハイ、もう片方はぁー、フランスパン?なんか緑色のソースかかってるけど…」

俺は言ってから口に運ぶと、
コレも好きな味だったっ゛

「緑色のはジェノベーゼソースだ。鶏のササミを軽く焼いて薄く斜め切り、スライスチーズをちぎってのせてからまた焼いてバターを塗ったパンに挟む。その上からジェノベーゼソースをかける。簡単だろ?」
智「簡単だね。…つか、マジうめぇ❤」
「どうだ、自分で作る気になったか?ロールパンの方はもっと簡単だぞ?」
智「(ほら来た!まただ)ヤダね。俺、料理好きじゃないもん。一条さんも知ってる癖に、」
「知ってるが…自分で作れれば役に立つだろう、好きな時に好きなモノが食べれる。…そうすれば体調管理だって…」
智「stop!体調管理ならしてるよ。自炊ってまではいかないけど、ウエイト考えて簡単なモノは作るし、週5でジムも行ってるし…一条さんも知ってるでしょ?だから、料理はしない。」

俺がそうキッパリ言い切ると、一条さんは溜息を吐いて運転に集中した。

(さて…静かになったトコロで、もう1つのタッパーの中身はと…)

俺は口元に付いたマヨネーズを舌で舐めとりもう1つのタッパーを開けた。

智「…て、ササミのサラダかいっ!」
「なんだ?ササミ好きだろう?」
智「だからって、ササミづくしは無いでしょうっ゛一条さん、なんか残念だぁーっ゛」

俺は両手で顔を覆い大袈裟に落ちたフリをした。

「何が残念なんだ?ダイエットにはササミは有効な食材だぞ?低カロリー高タンパク」
智「知ってるよぉーっ゛そんなコトくらいっ゛w『あしたのジョー』舐めんなよっ゛w」

俺は言いながらパクリとササミのサラダも食べた。

「30代は太るからな。気を使ってるんだ。コッチも。」
智「だからぁー、ちゃんとジムも言ってますぅーっ゛…もう、本当に何回同じコト言わせんだか、カロリー帳だってつけてるっチューのっ゛」
「さっきのチュッパチャプスも付けたか?ちゃんと書いとけよ。」

(ゲっ!見てたのっ?)

俺は心の中でビックリしながら口には出さず運転する一条さんを見詰めた。

(この背中見てるのもうどのくらいだろう…たまには、助手席に座ってみたいな…)

右にウィンカーを出しハンドルを切る一条さんの後ろ姿を見詰めながら、決して口には出せない思いを俺は心の中で呟いた。


そんな切ない思いを抱きつつ多忙な日々を送っていた俺は、ある日のコト事務所の少し先輩にあたる人に声を掛けられてとある飲み会に参加した。

場所は都内のBAR
招待客はみんな同じ事務所の先輩後輩。…けど、その誰とも親しいヤツはいなかった。

(つまんねぇーな。先輩の誘いだから来たけど…もう帰ろうかな…)

壁に寄り掛かりダーツを楽しむ後輩達を見ながらビールを飲んでいたら俺を誘った先輩が来た。

「山下!楽しんでるか?(笑)」
智「はぁ…まぁ…、」

俺が曖昧に答えると先輩は辺りをキョロキョロと見回してから俺の肩を抱きヒソヒソ声で話してきた。

「ちょっとさ、お前に聞きたいコトがあるんだけど…」

先輩はそう言うと、俺の肩を抱いたまま狭い通路を歩きBARの奥の方へと連れて行った。

「山下連れて来たぜ、」
「おーっ!来たか!まぁー座れよ、」

連れてかれたのはちょっとした隠れ部屋のようなフロアでー、
そこに居たのは、俺よりだいぶ上の先輩達が4人いた。

智「失礼します」
(なんだろう…この面々は…)

俺は少し警戒して先輩達の間に入った。

先輩達は思い思いの酒を飲み、ポーカーを楽しんでいる様だった。

「山下もやるか?」
「賭けポーカーじゃないから安心しろ(笑)」
智「はぁ…じゃあ、1回だけ」

1人の先輩が俺に席を譲り、煙草をふかしながらカードを切る先輩とやたらゲラゲラ笑う先輩に挟まれ俺もポーカーに混じった。

たわいもない世間話をしながら順繰りにカードを引いていた時だった。俺は意外なコトを聞かれた。

「トコロでさぁー、山下のマネージャーって、チーフマネだよな?…なんか、聞いてない?」
智「なんかって…何ですか?」

俺が聞くと、4人の先輩が申し合わせたかのようにお互いの顔を見合わせた。

「いやぁ…その…何か変わった様子は無いか?ってコト、」
智「変わった様子…??」

俺は何を聞かれているのかわからず、頭の中はチンプンカンプンで返事した。

「めんどくせーよ、単刀直入に聞こうぜ!」

俺に席を譲った先輩が焦れったそうに言って俺を見た。

「一条さん、事務所辞めるとか聞いてねぇか?」
智「えっ!?」

俺は思いもしなかったコトを聞かれて、思わず大きな声を出した!

「シーっ!声がデカい!」

カードを切った先輩が俺に向かって人差し指を立てて周りを見た。

智「一条さんが事務所を辞めるって、どういうコトですか?」

俺はふられた話が話なだけに、真剣な表情で目の前の先輩を見詰めて聞いた。
先輩達はまた顔を見合わせて、何やらアイコンタクトしてからカードを切った先輩が咳払いを1つして話し出した。
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