◆優しい雨〜sweetRain〜◆

□◇出会い◇◆出逢い◆
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僕の名前は 諏訪 巧

年齢35歳

Web制作会社 『ベイシック・オン』勤務。営業マンをしている。

会社は業界でも最大手だし、給料にも不満は無い。
何よりやりたい仕事が出来るコトに喜びも感じる。

(だけど……)

人生とはままならないモノで
仕事も順調
プライベートも順調でいた俺だけど、……色々あって結婚まであと1歩だった女性と最近別れた。

原因を作ったのは俺

会社の先輩と浮気した。
一夜限りの過ち

その先輩とは全くウマが合わなくてすぐに疎遠になった。

「なんか、僕は1人の方がイイみたい」

付き合っていた女性に先輩とどうなったのか聞かれて最後に言った言葉。

(本当に1人の方がイイのかなぁ〜……)

《キキー!》

「うおっ!」

朝の通勤ラッシュの中
物思いにふけっていたら電車の急ブレーキに思いっきり体を持ってかれた!

「イタタタ…!誰かに足踏まれた!」

全く…婚約が破談になり心虚しく過ごしている俺にも満員電車の荒波だけは容赦無く押し寄せる。

(今こそ1人がイイと思う。イタタ…!潰されるっ!)

俺が前後左右人混みに挟まれて身動きが取れない時だった!

「痴漢!この人痴漢です!」

俺の右隣にいた若い女が金切り声を上げて俺を指さした!

「え?なに?」
「貴方!今私のお尻触ったでしょ!」
「はぁ?さ、触ってません!」
「ウソ!触ったわ!絶対!」

俺は何が起こったのかわからなかった!気が付けば痴漢呼ばわりされていて喧喧囂囂まくし立てる女に押され周囲の人間もザワつきだした!見る見る俺を見る目が疑わしいモノになって行く!

(不味い!このままじゃ冤罪で捕まる!!)

俺は気が動転!
オロオロしながら「違います!違います!」としか言えない。

(どうしたらイイんだ!!
誰か助けてくれっ!!!)

そう心の中で叫んだ!


「この人痴漢じゃないですよ」

1人の男が冷静な口調で言った。
その瞬間、周りの騒ぎが収まり静まりかえった。

「そ、そんなコト無いわ!この人が私のお尻を触ったのよ!!」
「触ってません。俺は見てました。」

(見てた?この満員電車の中で??)

おそらく、この場に居た誰もがそう思っただろう

「見てたって…!どうやって見てたのよ?!このギュウギュウの中で!手元なんか見れないでしょう!!」
(ごもっとも。俺もそう思う。)

心の中で俺に痴漢の濡れ衣を着せた女に同意した。周囲の人間の気持ちも同じだ。

すると、男は「ハァーッ」と、溜息を吐いて静かに言った。

「貴重品、確認して下さい」
「貴重品?」
「財布、盗られてませんか?」

男に言われわけのわからない顔をしながら女はショルダーバッグの中を見ていた。

「あ!無い!私のお財布!!」

そう女が叫んだ時だった!

電車が駅に着き俺達の反対側のドアが開いた。

「退け!」

キャップを目深に被った1人の男が人並みを押し出し無理矢理ホームに出ようとした!

次の瞬間、俺の目に入ったのは
今まで落ち着いた態度で俺の痴漢疑惑を晴らしていてくれた男が
あっという間にキャップ男の首根っこを掴み電車の中に引き摺り込む姿だった!

「あなたの財布を盗んだのはこの男です!一緒に電車を降りて下さい!」
「は、はいっ!」

言われた女は電車を降り俺も一緒に降りた!

電車の中の異変に直ぐに数人の駅員が駆け付けた!
キャップ男を羽交い締めにしながら男は「警察です」と言ったのが聞こえた。

その後、「○○署のき$▼♯です」と、名乗っていたけれど駅構内のアナウンスと雑踏で聞き取れなかった。

(ああ!行っちゃう!!)

駅員の数が増えてキャップ男を取り囲む様に駅員室に向かう○○署のき…なんとかさんに向かって俺は叫んだ!

「ありがとうございました!」

朝一の精一杯の声で叫んだ俺に
○○署のき…さんは振り返り目元に笑みを浮かべて軽く会釈した。


「ハァ〜…すげぇ…カッコイイ!」

思いがけず自分に降りかかった災難をいとも簡単に一掃してくれた警察官に俺は感嘆の思いで言った。

「ちゃんとお礼言えなかったな…」

ホームに長く立ってられず、人並みに押されてエスカレーターに乗せられた俺は、地上に運ばれながらいつまでも見えなくなったき…さんの姿を探しながら後ろを向いていた。
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