◎KAT-TUN喫茶店◎

□紅の郵便配達員
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南にある小さな離島ー、


俺、中丸雄一はこの島で郵便配達員をしている。


雄「ヨネばあちゃんっW郵便でーす!」
「おや、ゆうちゃんご苦労さま(笑)丁度おはぎが出来たトコだよ、食べておいきな、」
雄「わぁーっWマジで!嬉しいなぁーっW遠慮なく頂きます!」
「冷たい麦茶もいれてこようね(笑)」
雄「ありがとうございます!」

俺は帽子を脱いで白いハンドタオルで汗を拭き拭き黒光りする広い縁側にドッカリと腰を下ろす。

小高い丘の上にあるヨネばあちゃんの家の周りは他に家が建って無くて目の前は見渡す限りの真っ青な海が広がっている。その向こうにはうっすらと霞みがかって他の島々が見えて、遠くに小さく連絡船が見えたりもする絶景スポットだ。

因みに、ヨネばあちゃんはこの島1番の御長寿。100歳を超えても元気に畑仕事をしていて、少々腰が曲がっているとはいえ言葉もハッキリしていてシャンとしている。随分前に夫を亡くし子供たちは本土暮らし。ヨネばあちゃんは一人暮らしの中、いつもこうして俺に甘いモノやお茶を振舞ってくれる。
自動販売機も無いこの島ではヨネばあちゃんちで頂くお茶は自転車で郵便物を配る俺にはものすごく有難く、丁度配達区域の真ん中に当たるので恰好の休憩所になっている。

「はいよ、おはぎ沢山作ったからいっぱいお食べ(笑)」
雄「わぁーっW美味しそうーっW有難く頂きます!」

ヨネばあちゃんは赤い漆塗りのお盆に冷たい麦茶と大人のコブシ大くらいある大きなおはぎを乗せて俺をもてなしてくれた。

「美味しいかい?」
雄「うん!とっても!甘すぎず丁度いい塩梅だよっW…あ、そうだ!忘れないうちにコレ、おばあちゃんちの郵便物、」

俺は小豆から作る自然の甘みたっぷりのヨネばあちゃんのおはぎを頬張りながら肩から掛けた黒い皮の鞄から可愛らしい封筒と現金書留の2つを出しておばあちゃんに渡した。

「おやおや、ありがとうねぇ〜(笑)孫の那奈からだよ、ゆうちゃん、アンタも読みたいだろ?鋏持って来るよ、」
雄「えっ?俺は別に…ソレよりおばあちゃんハンコ持って来てよ。現金書留の受け取りに必要だから、」

俺はモグモグしてる口元を手で隠しながら言うと、ヨネばあちゃんは「よっこらしょ」と、腰をあげて家の中に入って行った。


「はいよ、鋏。封を切って読んでおくれな、那奈がなんて書いてきたかゆうちゃんも興味あるだろ?」
雄「いや、別に興味は無いけど…」
「そうかい?じゃあ、目の悪いあたしの為に読んどくれよ。最近細かい字がトンと読みづらくなってねぇ〜っW」

ヨネおばあちゃんはハンコと一緒に持って来た老眼鏡をはめては外し両目をショボショボさせながら俺に手紙と裁ち鋏を渡してきた。

雄「仕方ないなぁー、じゃあ、お礼に読むよ。美味しいおはぎとお茶もご馳走になったしね。」
「うんうん、頼むよ(笑)」

おばあちゃんは嬉しそうに微笑み、その小さな体を前屈みに倒して俺が手紙を読み上げるのを今か今かと待っていた。
俺はそんなヨネばあちゃんの傍らで麦茶を一口飲み裁ち鋏で封を切り手紙を読み始めた。

雄「おばあちゃん、お元気ですか?私は相変わらず不規則な生活をしていますが元気です。」

手紙の主『那奈』さんというのはヨネばあちゃんの孫で、東京のテレビ局で働いているバリバリのキャリアウーマンだ。
歳は俺より一つ上で、サバサバした性格の姉御肌。気風のイイ女性で、一昨年の夏ヨネばあちゃんを訪ねてきた時初めて会った。

雄「あ、ばあちゃん、那奈さん来週コッチに来るって!良かったね!」
「そうかい(笑)来週は島の祭りがあるからねぇ〜(笑)那奈は昔っからこの島の祭りが大好きだったからソレに合わせて来るんだろうねぇ(笑)」
雄「ああ、そういえば、一昨年も去年も今頃来てたね。もう1年か…早いなぁ〜…」

俺は飲みかけの麦茶が入った丸いガラスのコップを両手で包むように持ってボーッと空を見上げた。

「それで?手紙の続きはなんて書いてある?」
雄「ああ!ごめん!帰る前にまた連絡するって、会えるのを楽しみにしてるって、」
「ふふふ…那奈が楽しみにしてるのは、ゆうちゃんに会えるからだろうさ(笑)」
雄「ブフっ!…ばあちゃん!なんでまたっW」
「ふふふ…(笑)若いってのはイイねぇ〜っW」

どういうワケかヨネばあちゃんは孫の那奈さんが俺のコトを気に入っていると思い込んでいてー、
手紙が着く度に俺に読ませてはアレコレからかって来て些か困っている。

雄「もう一つの手紙も読もうか?」

俺は現金書留の中にも手紙が入っているのを知っていたから聞いた。

「ソッチはイイよ。どうせ、島を離れて本土へ来いって話だから、」

ヨネばあちゃんはそう言って俺が渡した現金書留にハンコを押した。書留の送り主はヨネばあちゃんの娘、那奈さんのお母さんからで、毎月定期的にお金をばあちゃんに送って来る。

雄「そんな言い方して…娘さんもおばあちゃんを心配してるんじゃないの?連絡はとってる?」
「連絡なんて別に…電話代が勿体無いだけだよ、さぁーさ、そろそろ休憩は終わりだよ!おはぎは持たしてやるから仕事してきな、」
雄「オトト…っWまたそうやって都合が悪くなると人を追い立てるんだから…っWわかったよ、行くよ、」

ヨネばあちゃんは俺が座っていた藺草(いぐさ)で出来た丸い座布団を引っ張り早く仕事に行け!と追い立てるので、俺は最後の一口のおはぎを落としそうになり慌てて口に入れて麦茶を飲み干した!

「はい、おはぎ。3時のおやつにでも食べな、(笑)」
雄「ありがとう!夕飯にも食べるよ!ヨネばあちゃんのおはぎ大好きだからっW(笑)」

俺は風呂敷に包まれたまだ温かいおはぎを有難く貰い自転車の荷台に取り付けられた箱の中に丁寧に入れた。

雄「また明日来るからね、ヨネばあちゃん!」
「あいよ、待ってるよ!(笑)」

片手を上げてヨネばあちゃんに挨拶して自転車に跨り下り坂を軽快に漕ぎ出すと、爽やかな夏の風が一気に全身を包み込んで汗が引いた後の体に心地良かった。
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