§勝運御伽草子§
□ビードロと煙管 その弐
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俺の名前は、中丸雄一。
しがない絵描きだ。
今までにも絵が売れなくて、散々ひもじい思いをして来たけど、
今回ばかりはマジでヤバい。
雄「流石にまる3日食って無いのはキツい…↓↓↓」
俺は下借家のところどころ破れた畳に顔を突っ伏してささくれ立ってる畳を噛み締めてみた。
雄「ダメだ↓コイツは食えねぇ〜っ゛…鍋に入れて煮たら食えるかな?…いやいや、七輪に使う炭もねぇ〜やっ゛」
俺は頭を抱えゴロンゴロンのたうち回った挙句
雄「仕方ない。…家に行くか、」
俺は重い腰を上げてフラつきながら下借の階段を降りて日本橋にある実家へと向った。
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雄「ヨシ、誰もいないな?」
俺は裏木戸からそっと中の様子を伺い抜き足差足…背を低くして庭へと入った。
《ワン!ワンワン!ワン!ワン!》
雄「うわぁーっ!!!」
俺に向かって吠えたのは愛犬の『コロ』父さんが知り合いから譲り付けた秋田犬で、小さい時からコロコロとして愛くるしい姿をしていたのでそのまま『コロ』という名前になった。
雄「おおっ!コロ!びっくりしたぁー!大きくなったなぁ〜っ゛♬」
《ワン!ワン!わふっ゛♬》
雄「アハハ!くすぐったいっ゛♬わかったから、わかったから、静かにっ゛シーっ゛」
俺は飛びかかって来ては大きな尻尾を振りまくるコロに顔をぺろぺろ舐めなれながら唇に人差し指を立てた。
雄「みんなが来ちゃうからな、ちょっとの間、大人しくしていてくれよ?」
《クゥー…ン》
雄「よしよしっ゛イイ子だっ゛」
コロの頭を撫でてやり、俺は再びそう〜〜〜っと、縁側から自分の部屋のある離れへと歩いた。
(確かこの辺に売れそうな画集があったような気が……)
「泥棒ぉーっ゛!」
雄「うああっ!!」
いきなり叫ばれ振り返ると、ソコにいたのは下の妹だった!
雄「お、威かすなよっ!心臓飛び出るかと思った!」
「お兄様こそ!何をコソコソなさってるんです?おかえりになられたのなら声をかけて下さいまし!」
下の妹は上目遣いにじろりと俺を見るとかしこまっていった。
雄「声掛けたら、父さんや母さんが気づくだろ?…顔合わせたく無いんだ、」
俺は自分の部屋の本棚という本棚から良さげな画集を選びながら後ろ向きに妹に話した。
雄「アレ?ココにあったルノワールの画集知らないか?」
「るのわーるだがなんだか知りませんけど、可愛らしい女の子の画集ならお姉様がお持ちになりましたわよ?」
雄「えー?なんだよ、アイツ他人のモノを勝手に…っ!…あ、」
「誰が他人のモノを勝手に、ですって?」
妹の後ろに今1番会いたくない母の顔があった!
雄「母さん…」
「雄一、帰ったのなら母屋に顔を出しなさい。」
雄「すみません…」
「ソレになんですか?その格好は…見窄らしい。仮にもあなたは呉服問屋の跡取りなのですよ?キチンと身なりを整えてからいらっしゃい!」
母さんは言うだけいうと踵を返して長い廊下をしずしずと母屋へ向った。
雄「ハァ〜↓見つかっちまった↓面倒臭いなぁーっ゛」
「仕方ありませんわ。お兄様が大きな声を出されるから、さ、お支度なさって!遅れるとまたお母様に叱られますわよ!」
雄「わかった!わかった!わかったよぉ〜っ゛…ったく!仕方ない。母屋に顔を出すか、」
俺は妹に尻を叩かれながら身支度を整えて母屋へと重い足を引き摺りながら歩いた。