10Ks!

□ぴぃの憂鬱
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俺、山下智久。
通称『山P』

「山下、煙草は控えろ、」
智「ハイ、ハイ、」
「ハイは一回。」
智「ハイ、ハイ、」

俺のヤル気の無い態度にジロりとバックミラー越しに睨むのはチーフマネの一条豊。
俺はこの男が気に入らない。

智「ねぇ、局入りする前に腹ごしらえ出来ない?俺、朝から何も食ってないんだよねぇ〜」
「無理だな。昼食なら前の仕事で出ただろう?」
智「アソコの弁当マズイんだよ、揚げ物はやたら油っこいしさ、」

俺が何故、この男が気に入らないかというと、どんなに頼み事をしても一向に聞いてくれないコトだ。(人は俺の頼みは大半が我儘だと言うが、俺自身は我儘とは思っていない)
今だって、次の仕事にはまだ時間があるし、腹が減ってるからちょっとコンビニにでも寄ってくれればイイのに寄ってくれない。
俺が思うに、マネージャーっていうのはタレントのアシストであって、ビジネスパートナーであり、時に悩みや相談事を聞いてもくれる言わば『友人』や『親兄弟』みたいな存在だと思っていた。
現に今までのマネはみんなそうだったし、Iマネの時は特に色々世話を焼いてくれた。

智「本当にダメ?俺、サンドイッチ食べたいんだけど…セブンのシャキシャキレタスハムサンド」
「あ、俺が買いに行きましょうか?」

同乗していた新任のマネが気を効かせて助手席から後部座席にいる俺に聞いてきた。

なのに、

「甘やかすな。前の現場で食事の時間もあったのに食べないのが悪い。弁当が気に入らないならその場で買いに行くなりすればイイだろう、」

正解。その通り。

でも、俺はそんな正論を受け入れない。

智「チッ!もうイイよ!いらない!」

俺はゴロンと後部座席に寝転がりスマホを取り出して2人を無視した。

そんな俺の態度を見て新任マネはハラハラした様子で俺とチーフマネを交互に見て、チーフマネはまたジロりとミラー越しに俺を見ただけだった。

こんな最悪の信頼関係も築けていない俺達に新たな仕事が来た。

新しい仕事について現場に着いて早々、楽屋に入るとチーフマネが話し始めた。

「〇テレで4月から始まるドラマに出演が決まった。」
智「〇テレ?もしかして、新土曜ドラマってやつ?」

俺は噂に聞いていた〇テレの土ドラ枠が10時枠になるのを思い出した。

「そうだ。タイトルは『ボク、運命の人です。』」
智「主人公、亀じゃん!」

俺は渡されたドラマの資料に目を通して叫んだ!

簡単なあらすじを読むとー、
運命を信じる主人公を亀が演じ、出会った(木村文乃さん演じる)ヒロインに恋をする。
一方、運命など全く信じないヒロインは、主人公の猛烈なアタックにも心を開かず拒絶する。
そんな、フラれ続ける主人公に恋のアドバイスをし応援する謎の男の役が俺だ。

智「神様って…wそう名乗るワケ?」
「ストーリーも笑いがあって面白いし、王道のラブロマンスだ。
〇テレ側も29年ぶりの番組編成だ。力入れるだろう。」
智「29年ぶりねぇ〜…で?その力入れてる証拠に12年前土ドラで共演した俺と亀にまたタッグを組めってコト、」
「そうだ。話題性は充分だろう。主題歌もお前と亀梨で歌う。『修二と彰』に習って『亀と山P』だ。」
智「『亀と山P』??なにソレ?本気っ!?」

俺はあまりにも安直なユニット名に身を乗り出して驚いたけど、
チーフマネは相変わらずのポーカーフェイスで「覚えやすい名前だ。イイだろう」と、淡々と答えた。

智「フゥー、まぁーイイけど…亀と共演かぁ、」
「なんだ?何か問題でもあるのか?」
智「別に…」

俺はそう短く答えて渡された共演者リストを見た。

亀は別に嫌いじゃない。
かと言って好きでもないし、所謂
『普通』ってヤツだ。

(なんていうか…お互い目には見えない壁があるんだよなぁ〜…「こっからは入らせないぞ」っていう壁がね…まぁー、お互い様なんだけど…)

「何か問題があるなら言え。コレから毎日の様に顔を合わせるんだ。不安材料があるなら、早めに解決した方が良い。」
智「別に何も無いですよ。」
「本当か?」
智「そんなに心配しなくても、俺も大人なんだし例え蟠(わだかま)りがあっても上手くやりますよ。仕事なんだから、」

俺はしつこく聞いてくるチーフマネにそう答えて楽屋を出た。
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