図書館からの寄贈本

□流れ星のなみだ
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※初っぱなから2号が亡くなってます。





ーーーねぇ、泣かないで……。



貴女の白くまろい頬に、星屑が流れ落ちて、ボクは……ーーー





【流れ星のなみだ】






ーーー2号が死んだ。



その事実だけが、冷たく鋭い硝子片となって僕の心臓に切り傷を残した。
周りから見れば、僕は滑稽だろう。
彼等は僕を不審または、好奇の瞳で見てくる。
何せ、対して可愛くもない女子高生がビービーと泣きながら、人通りの多い朝の長い通学路を歩いているのだから。
僕の持ち前の影の薄さも、今回ばかりは役に立たなかった。



ーーー昨日、バスケ部のロードワークに一緒に行くついでにと、テツヤ2号の散歩に出掛けた。



捨て犬だった2号は、目元が何処か僕に似ていると、小金井先輩が初め"テツナ2号"と名付けたが、雄だったため"テツヤ2号"と名を改められた仔犬だった。
バスケを眺めるのが好きで、犬恐怖症な火神君を追いかけるのも好きで、先輩達に頭を撫でられるのも好きで、降旗君達にボールを転がしてもらうのも好きで、カントク特製(毒性?)犬マンマは苦手(と言うか全力で逃げていた)で、誠凛の皆が大好きで、そいて、僕を含めた誠凛のメンバーに愛されていた。



ーーーけれど、信号を渡る途中、交差点を急に右折してきたバイクにその身を跳ねられた……!



何せ、一瞬だった。
あまりの勢いに持っていたリードが手から離れた瞬間、繋がりが離れた気がした。
2号の小さな体躯が硬いアスファルトに叩き付けられ、ベシャリと嫌な音が僕の耳にこびりついた。



ーーー……それからはあまり覚えていない。



恐らく、取り乱した僕を一番近くにいた木吉先輩が抱き止めて落ち着くように叱咤し、カントクが悲鳴を上げ、キャプテンが2号を轢いた時に横転したバイクの運転手に怒鳴り散らしたーーー筈だ。
火神君達もキャプテンに便乗し、殴り込もうとしたかもしれないが、本当に覚えていない。
ただ、硬い掌(多分伊月先輩の)がもう見るな!と僕の両目を覆った瞬間に、僕の意識は暗転したのだから。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





昨日、あんな事があって部活は今日は無い。
けれど、いつも通り早く起きてしまった僕は、勿論朝練がない事を思い出し、釣られてその理由である"2号の死"を思い出して涙を堪えた。
家に始業に間に合う時間まで居る気にもならずに、僕は朝練には遅く、始業には早すぎる時間に登校することにしたが、家を出た瞬間、堪えていた涙が一気に溢れ出して、家の中に戻れば両親と祖母に不振がられそうだからと、羞恥を圧し殺して登校していたーーーけれど、やはり歩みを進めれば進めるほど僕の脚は重くなり、現在は人気の無い公園のベンチで泣いている。
普段、"無表情"やら"鉄仮面"やら"じゃすたうぇい"やら言われているが、今の僕は赤ん坊と変わらなかった。
そんな時ーーー





「ーーーねぇ、どうして泣いてるの?」





少し高くてふくよかな、男の人の声。
驚いて顔を上げれば、いつの間にか僕の目の前には、同い年または中学生くらいの男の子が立っていた。
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